一方おとなしい馬は、こちらの思う通りに調教過程を踏むことができるので、入り口で間違ってしまうとどんどん間違った方向にいってしまうことがある。うまくいっていると思っていても、馬はじっと耐えて嫌で嫌でしょうがないと思っているかもしれない。あるいは、おとなしいんじゃなくて、あまり走ることに前向きじゃないのかもしれない。そういうのはレースになってみないと分からないところがあります。
まだまだ子供で体力的に足りないところもあるので、走りそうだからとオーバーワークにならないようにしなければならない。特にこれから梅雨に入って馬場が悪くなるのがやっかい。2歳馬は疲れが残りやすくなります。
こういう話になると、馬が喋ることができればいいなんて言う人がいるけれど、馬が喋ったら僕たちの商売は成り立たなくなっちゃうかもしれません。「オレを走らせるんじゃない!」って騒いだり「調教休みたい」って反抗したり、「美味いモノ食べさせろ」とか要求したり(笑)。にんじんと飼い葉くらいで黙って真面目に走ってくれるんだからとても健気な動物です。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。
※週刊ポスト2022年6月10・17日号