世界バンタム級3団体王座統一戦。2回、ノニト・ドネア(右・フィリピン)を攻める井上尚弥(時事通信フォト)
「自分はやる前から、必ず言葉にしていたのが、ドラマにするつもりはない。この試合は圧倒的に、一方的に勝つんだという思いで、自分にプレッシャーをかけて、この試合に挑みました」。彼にとって勝ち方こそが重要だったのだ。
その言葉通り、1ラウンド終了間際に鋭い右カウンターが決まり、一度めのダウンを奪う。試合終了後、ドネア選手は自身のSNSでライブ放送を行い、「これまでもらった中で一番強烈なパンチだった」「パンチが見えなかった」と振り返った。
井上選手がこのように圧倒的なパフォーマンスを見せるのは、試合中に自分を信じられるという力があるからだと思う。準備万端整えて、自信満々で試合に臨んだとしても、いざ試合が始まり思うようにいかないと、持っていた自信など粉々に砕け散るものだ。長時間戦わなければならないテニスやゴルフでは、それがはっきり目に見えることもある。
井上選手も1ラウンドの開始早々、左フックをドネア選手から浴びた。インタビューでは「開始早々、もらって緊張感がついたのと、そのおかげでしっかりぴりついて、試合を立て直すことができました」と言う。そしてドネアに放った右ストレートが「かなりきついタイミングで入ったので、これは自分がやってきた練習に間違いないという思いで、2ラウンドに入りました」と語った。
試合中に自分が練習してきたことを信じ、それを積み重ねてきた自分を信用する。当たり前のことだが、なかなかできるものではない。自分を信じた井上選手は「ここで終わらせなければその先に進めないと思った」と、2ラウンド目を攻めたのだ。
「ドネアがいたからこそ、このバンタム級で自分は輝けた」という井上選手は、この勝利で「1つ上のステージにいけるかなと思っています」と語った。4団体統一王者まで残すはWBOの王座のみ。次はどんな勝利で期待を裏切ってくれるのか、予測できない。