パワーバランスを壊しながら、俳優の気持ちも監督の意見もくんで撮影をスムーズに進める
映像業界でインティマシー・コーディネーターが誕生したのは2018年頃のこと。ハリウッド女優たちが有名映画プロデューサーによる性暴力やハラスメントの被害をSNSで告白した「#MeToo運動」を機に、欧米で広まった。西山さんが説明する。
「インティマシー・コーディネーターは民間資格で、アメリカを中心に複数の団体があります。私が資格を取った2020年の時点では世界で100人未満しかいない職業でしたが、次第に増えています。アメリカでは2018年、人気ドラマシリーズの『セックス・アンド・ザ・シティ』で知られる大手ケーブルテレビ局HBOが、同局で制作する全作品にインティマシー・コーディネーターの導入を決めました。日本には2人しかいませんが、海外ではほかの映画やドラマの制作現場でも導入がスタンダードになってきています」
日本で初めてインティマシー・コーディネーターが入った作品は、冒頭の水原が主演を務めた映画『彼女』だ。2021年4月に配信された同作品は、女性2人の愛を描いたストーリーで性的な描写が多い。梅川プロデューサーに不安を感じた水原がNetflixに提案して採用されたのだ。
今年2月から配信され、大胆な濡れ場が話題を呼んだNetflixオリジナルシリーズのドラマ『金魚妻』でもインティマシー・コーディネーターが起用された。配信記念イベントで、主演の篠原涼子(48才)は感想をこう語った。
「何かあったら、途中で入ってきてくださったり、アドバイスしてくださったり。そういう安心感がありました」
だが、こうした仕事内容は決して単純なものではない。Netflix以外の映画やドラマを複数担当してきた西山さんが説明する。
「いくら風通しのいい制作現場でも“仕事を依頼する側”と“受ける側”の潜在的な力関係が存在する。そのパワーバランスを壊しながら両者の意見をくんで、現場をスムーズに進めるのが私たちの役割。俳優の味方、代弁者と思われがちですが、厳密には違います。まずは監督の意見に耳を傾けて、どうやれば作品がよりよいものになるかを一緒に考えていきます」(西山さん)
【プロフィール】
西山ももこ/1979年8月23日、東京都生まれ。高校、大学時代にアイルランドで学び、チェコのプラハ芸術アカデミーでダンスを軸に表現活動を学ぶ。2008年に帰国し、翌年からアフリカ専門の撮影コーディネーターに。2020年にインティマシー・コーディネーターの資格を取得し、国内外の作品に携わる。
※女性セブン2022年6月30日号