安倍晋三・元首相(時事通信フォト)
「人事権はオレにある」
それが、昨年の衆院選を乗り切り、コロナは沈静化に向かい、支持率が上向くと本人は次第に自信をつけてきた。
「1期3年では終われない。2期6年の長期政権を目指し、歴史に名を残す」
岸田首相の内面にそうした野望がムクムクと頭をもたげてきたのは当然かもしれない。
人事からも“安倍には負けない”という自信がうかがえる。7月1日付の防衛省人事で、安倍政権時代に首相秘書官を務めた安倍側近官僚の島田和久・事務次官を交代させた。安倍氏や実弟の岸信夫・防衛相は交代に反対して留任を求めたが、岸田氏は「人事権はオレにある」と現職総理の力を見せつけたのだ。
「安倍政権時代の岸田さんはそれこそ臥薪嘗胆だった。2018年の総裁選では岸田派の若手全員が出馬を求めたが、岸田さんは時の安倍首相と対決するのを嫌って出馬を断念。それなのに結局、政権禅譲してはもらえなかった。今回の人事は、単に安倍離れというだけでなく、現職総理としていつまでも安倍さんのいいなりにはならないという覚悟を示した」(前出の安倍派議員)
しかし、2期6年の長期政権を目指すなら、次の自民党総裁選(2024年9月)で再選されなければならない。最大派閥の安倍派を敵に回せば、総裁選の行方はわからなくなる。だから岸田首相は解散・総選挙を打つ必要がある。
菅の轍は踏まない
長期政権を保って権力の重さを知る歴代の首相は、解散について示唆に富む言葉を残している。
「総理の権力は内閣改造するほど下がり、解散をするほど上がる」──そう語ったのは佐藤栄作・元首相(在任7年8か月)だ。解散・総選挙を打って勝てば首相の求心力は高まり、政権は安定する。
それを実践したのが佐藤氏の姪孫の安倍氏だ。安倍氏が2012年総選挙(野田佳彦・首相が解散)で大勝して政権に返り咲いた当初は政権基盤が強くなかったが、2013年参院選に勝利すると、野党側に選挙準備がないのを見て翌2014年12月に解散・総選挙を打って大勝し、長期政権の基礎を固めた。「選挙に強い総理」であることを見せつけて権力を強めたのだ。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が語る。
「黄金の3年間といっても、2年後には次の自民党総裁選がある。再選されなければそこで政権は終わってしまう。最近の岸田総理は、岸田派議員や官僚たち、外遊の際の海外スタッフとの懇談でとても上機嫌で、総理の座を心地よく感じているようです。黄金の3年どころか、自民党総裁を2期6年やり遂げたいと考えているはず。総裁に再選されるためには、総裁選前に解散・総選挙で勝負に出て勝利することが必要条件になる」