日本における医療費の推移
全国の医師と連携して減薬に取り組む名古屋経済大学准教授で管理栄養士の早川麻理子さんも、栄養面の指導を行う存在が必要だと声を揃える。
「診療時間内に医師が患者の生活や食事の内容まで聞く余裕のある病院はほとんどない。そうなると病状の悪化を恐れて、同じ薬を継続して処方することになってしまう。患者側も体調が悪くなることを懸念して薬をのみたがり、お互いが薬にしがみつく状況が生じることもあります。
実際、糖尿病を患っているうえに中性脂肪の値も血圧も高く、何軒病院にかかっても入院しても改善されず、薬は常時6種類以上服用していた患者と一緒に食事内容を考え、改善したことにより、体重とともに薬を1種類に減らすことができたケースがあります。
血糖値を下げるために食事の間隔をどれくらいあけるべきか、いつどの程度の運動をするのが最も効果的かなどの指導は、栄養学の分野であるうえ、患者一人ひとりの状況によって何が最適かが異なります。医師と管理栄養士が連携して、患者の生活に深くアプローチできる体制を整えることが急務です」(早川さん)
減薬は「チーム戦」でもあるのだ。
減薬は家族で闘う“情報戦”
“見張り役”に加え、断薬の成功を左右するのは医師の存在だ。瀬戸循環器内科クリニック院長の瀬戸拓さんは、薬がいるかいらないかを正しく判断するには、専門医の存在が必須だと指摘する。
「たとえば血圧は季節によって変動します。一般的に夏は低く、冬は高くなる傾向にあります。循環器に詳しい内科医であれば、血圧を見ながら降圧剤をやめたり減らしたりしますが、詳しくない医師が同じ量を常に処方すれば、血圧が下がりすぎてふらつきが出ることもあります」
特に、もともと複数の専門病院で処方されていた薬を、在宅診療で1つのクリニックにまとめるときは注意が必要だ。
「在宅診療医は病気全般を診療することに長けている半面、専門医と違って、認知症や高血圧など症状に応じた処方が難しくなる。専門医と連携して適切な処方に取り組む在宅医もいますが、血圧の数値が大きく変動しても対処法がわからず同じ薬が漫然と処方されてしまうケースもある。
在宅医を選ぶ際、こうした内科的知識を持っているかどうかを確認することも選択肢の1つとして覚えておきたい」(瀬戸さん)
医師選びに加え、自分でも情報収集をすることもスムーズな減薬につながる。日本で初めて「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが言う。
「生活習慣の改善については多くの病院で具体的な指導が行き届いていないのが現状。自分でも情報を集めて実践することが肝要です。
たとえば、『野菜をしっかり食べる』といっても、コンビニのカット野菜は栄養素も少なく、保存料も使われている。反対に高血圧の大敵だといわれる塩は、天然塩であればミネラルが含まれていて、血圧を上げにくい。何が体にいいのかを調べる努力をしてほしい」(松田さん)