コンサートのプロデューサーとして付き添った夢グループの石田重廣社長
ところが、「楽屋裏の駐車場にいる」とマネージャーから電話がきた。驚いて見に行くと、車の中に横たわり酸素マスクをしながら「社長、歌わせて。ステージに上げて」「命がある以上、歌いたい」と葛城さんは言う。
私はすぐさま彼女のコーナーを作りました。私はステージに上がり「もしかすると彼女の命はあと数時間かもしれない。驚かれるかもしれませんが、これが今の葛城ユキです」と紹介しました。
葛城さんは車椅子を横倒しにして寝ているような状態で舞台に出ました。さすがに歌えませんでしたが、入院前にステージで歌った『ヒーロー』の映像をバックに、元気だったころの『ボヘミアン』の歌声を流して、客席に「ありがとうございます」と言いました。
最後に話したのは、亡くなる5時間くらい前です。「これから救急車を呼びます」と本人から電話がきました。葛城さんは生前、「亡くなる前に自分で救急車を呼ぶ」と言っていたので、その時が来たのだと思いました。
そして、「社長様、どうか最後に聞いてください。健康に気遣って生きてください」と。これから亡くなるという時に、人の体を気遣うなんて……。葛城さんは本当に優しい。死に様は生き様だ、そう思った瞬間でした。
※週刊ポスト2022年7月29日号