「大社線は1990年に廃線となっていますが、その後も駅舎などの施設は国鉄清算事業団が所有していました。大社駅の駅舎は純和風建築で、文化・歴史的な価値が高いことから1995年に旧大社町が購入し、2004年に重要文化財の指定を受けました。2005年に大社町と出雲市が合併したので、現在は出雲市が管理・保存するとともに観光施設としても活用しています」と話すのは出雲市市民文化部文化財課の吾郷誠さんだ。
出雲市駅―大社駅を結んでいた大社線は、出雲大社のアクセス路線だったこともあり最盛期は全国からたくさんの参詣者を運んだ。急行列車が乗り入れていた時期もある。
しかし、歳月とともに利用者は減少して大社線は廃止。当然ながら、大社駅も廃駅となった。廃線跡はサイクリングロードなどに転用されたが、中間駅だった出雲高松駅や荒茅駅の跡地は今でもホームの跡地などが面影をとどめている。
謎が残る旧大社駅創建時の屋根の色
大社駅の駅舎は廃線後も取り壊されることはなく、駅舎としての使用を終えた後に重要文化財に指定された変わり種でもある。使用を終えた後のため、管理は行き届いていたとは言い難く、風雨に晒されて建物は傷んでいた。そうした事情から改修の必要性が高まり、出雲市は2021年から旧大社駅の保存・修理工事を開始。工事中だった今年の6月25、26日には、一般向けに駅舎内部の見学会が実施された。
「旧大社駅には、ホームや線路といった鉄道構造物の一部も残っています。今回の保存・修理工事は、重要文化財に指定されている駅本屋(えきほんや)と呼ばれる駅舎の部分だけです。駅本屋には、きっぷ売り場になっていた窓口も残っています。雨漏りがひどいので、保存・修理工事は雨漏り対策と耐震補強がメインです」(同)
出雲大社の玄関でもあった大社駅は重要文化財に指定されているから、保存・修理工事は文化・歴史遺産を守り後世へと受け継ぐという重要な使命を帯びている。こうした保存・修理工事には、一般の工事とは異なる点がいくつかある。
「現代の基準に照らせば、コンクリートや鉄などで補強をした方が耐震的にも安全ですし、防水面でも安心できます。そうした点を踏まえて、目に見えない部分はコンクリートを使いますし、屋根裏の柱や梁にも鉄骨を用います。しかし、建物の歴史的価値を損なわないように、目に見える部分にはコンクリートや鉄による補強をしないように配慮しています」(吾郷さん)
旧大社駅は外観が純和風建築である点が評価のポイントでもある。コンクリートや鉄などの建材が耐震補強のために使われるのは時代の要請だが、見える意匠部分に関しては純和風を徹底したいと考えるのは不思議な話ではない。