大正時代の創建当時の姿になったJR東京駅丸の内駅舎の南口のドーム型屋根(時事通信フォト)
また、今回の保存・修理工事は単なる改修を目的にしただけのものではない。歴史的な調査も兼ねている。
駅舎を新しく建て直すだけなら、もっと短期間で工事を完了させることも可能だ。短期間で工事を終了すれば、それだけ工費は安くなる。しかし、保存・修理工事では、ひとつひとつ部材を確認・調査・記録していかなければならない。
「雨漏り対策では屋根を葺き替えるのと同時に、屋根材に使用されている平瓦をひとつひとつ取り外して調査・記録をします。ほかにも、梁や柱など、駅舎全体を細かくチェックすることになります。それらの調査がとても大事なのです」(吾郷さん)
そこまで手間をかけるのは、旧大社駅が重要文化財に指定されているからにほかならない。そして、念には念を入れた調査をする理由もある。
「旧大社駅は、昭和50年頃に屋根を葺き替えているようなのです。この葺き替えのときに屋根の色が創建当時と変わったという話を聞いています。当時は重要文化財に指定されていませんでしたし、歴史・文化遺産という意識も希薄でした。だから、記録は残されておらず、正確なことは不明です」(吾郷さん)
今回の調査で誤った記録を残してしまえば、数十年後に旧大社駅を再び保存・修理工事することになった際に担当者は頭を抱えることになるだろう。誤って別の建材を使ってしまえば、旧大社駅の歴史的な価値が激減する恐れもある。下手をすれば、再建できなくなってしまう可能性すらある。
そうした事態を招かないためにも、調査は慎重を期さなければならない。旧大社駅の保存・修理工事期間は約5年で、完了時期は2025年末を予定している。
旧大社駅の駅舎は長らく橿原神宮や平安神宮などを手がけた不世出の建築家・伊東忠太が設計したと口伝されてきた。ところが、1990年の調査時に棟札を発見。その棟札から、設計者が丹羽三雄であると判明した。これは、これまでの通説が覆される大発見になった。
旧大社駅の保存・修理工事と同時に取り組まれる歴史的調査で、再び大発見があるかもしれない。