「今年の夏は、コロナ禍前より売り上げがあって本当にびっくり。何年も続くコロナのせいで、お店を畳もうか本気で迷っていたところでした」
都内の下町エリアで総菜店を経営する坂本春美さん(仮名・60代)も、猛暑で過ごしにくかったはずの夏に、すさまじい「バブル」を経験したという一人。毎年夏になると、自宅でわざわざ熱いものを作りたくないためか、天ぷらなどの揚げ物の売り上げが伸びる傾向にあったというが、今年のそれはまさに「飛ぶように売れる」勢いだったと振り返る。
「暑いから天ぷらなんか揚げたくないでしょ(笑)。それに、コロナ疲れでそろそろ外食したいって人も多くて、でも感染者が増えてお店には行けないからうち(の店)でってお客さんが多かったね。でも、少し涼しくなると全然ダメ。また客足が落ちれば、年も越せない」(坂本さん)
坂本さんと同じく、暑さで夏は乗り切れたものの、お先真っ暗だと悲観気味なのは、神奈川県内の喫茶店経営・佐々木昌一さん(仮名・50代)。
「去年一昨年の夏は、コロナ対策でまともに商売ができなかったから、ほとんど開店休業状態でした。今年は特に暑かったでしょ? 店を閉めていても”やってないのか”と訪ねてくる客が多くて、通常営業に戻すかという感じで…」(佐々木さん)
6月頃から、店を「避難所」のように利用する客が増え始めると、7月や8月には、コロナ禍前に滅多になかった満員状態が続くことも。客足が減り、補助金などを使ってなんとかやり過ごしてきた佐々木さんにとって、この夏の猛暑は「神風」のようだった。
「汗だくのお客さんが多いから、おしぼりを2セット出したりしてね。電力不足だったから、照明を消してでもエアコンをかけてました。でも少しでも(外の)気温が下がると、客足はピタッと止むんだよ」(佐々木さん)
コロナ禍で苦しい思いをして、夏の猛暑でつかの間のバブルの恩恵を享受したという三人だが、夏の終わりとともに感じているのは「バブルが終わり、あとどれくらい持ちこたえられるか」という悲観的な展望だ。佐々木さんが続ける。
「もう補助金やらで生き延びるのも限界。夏の特需のおかげで現実を少し忘れられたけど、少し涼しくなったかと思ったら、首まわりが凍てつくような気分。同じような人、多いんじゃない」(佐々木さん)
感染者数が一時より減ったとはいえ高止まり、猛暑特需もなくなり、現実に引き戻される人々たち。コロナ禍の生活も三年目を迎えているが、騒動に翻弄され続け、身や心をすり減らす日々はいつまで続くのか。