「肺活」と「腸活」が有効
それでは大人たちは今、なにをするべきなのでしょうか。まず理解しておきたいのは、自律神経の働きが乱れていることが問題の核心であり、そのメカニズムは大人も子どもも変わりません。ここに論理的にアプローチしていくことが、子どものメンタルを心配する大人たちに求められているのです。
理想的な自律神経のリズムと乱れた自律神経のリズム
子どものメンタルに関しても、親自身のメンタルに関しても、精神論を展開してはいけません。まずは、フィジカルを刺激する方法によって、「体」を整えてあげることが大切です。
そのために有効なことの一つが「呼吸」です。精神的に不安定な状態に陥ると、交感神経が強く働きすぎて呼吸は浅くなります。そして、呼吸が浅くなると交感神経はさらに暴走するという負の連鎖に陥るのです。
拙著『本番に強い子になる自律神経の整え方』では「肺活」と称して具体的な方法を紹介していますが、肺を鍛えることで、普段から深い呼吸ができるようになり、自律神経が整っていきます。
もう一つ、腸内環境を良くする「腸活」も極めて有効です。腸と自律神経は密接に関与し合っており、自律神経が乱れれば腸内環境は悪化し、腸内環境が悪化すれば自律神経が乱れるからです。
「腸活」も有効
もちろん、運動も大事です。外出の機会が減り、大人も子どもも「コロナ太り」が増えてきました。ストレス解消のためにも体を動かしましょう。詳しくは拙著にまとめましたが、ほかにも、コロナ禍でありがちな日常において、改善すべき点がさまざまにあります。
自律神経の乱れは、昨日今日にいきなり起きるわけではありません。小さな積み重ねが、いつの間にか大きな問題となっているわけです。そして、その大きな問題を解決するのも小さな積み重ねです。
拙著にまとめた方法をちょっとずつ親子で試していくことで、自律神経は整っていきます。絶対に焦らず、無理をせず、親子で一緒に、なるべく負担を感じない方法だけを実践して、自律神経を整えていきましょう。
【プロフィール】
小林弘幸(こばやし・ひろゆき):順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任する。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」としても知られ、腸内環境を整える味噌汁や自律神経を整える呼吸法やストレッチを考案するなど、健康な体と心をつくるためのさまざまな方法を提案している。
イラスト/大塚砂織