国際情報

各国による「宇宙の覇権争い」に変化 中国は躍進、日本は後れをとっている状況

2020年12月、中国の無人月面探査機が月面着陸。サンプル約2kgを採取して地球への帰還に成功した

2020年12月、中国の無人月面探査機「嫦娥(しょうが)5号」が月面着陸。サンプル約2kgを採取して地球への帰還に成功した

 10月7日、宇宙飛行士の若田光一さん(59才)が国際宇宙ステーション(ISS)に到着した。日本人宇宙飛行士として最多となる5回目の宇宙飛行で、ISSにおよそ半年間滞在する。

 学習院大学法学部教授の小塚荘一郎さんは、こう話す。

「宇宙ロケットは真っ直ぐ打ち上げれば宇宙に行きますが、斜めに飛ばせばミサイルになります。宇宙開発の技術は、軍事に転用される恐れが高い。そのため1966年に合意された『宇宙条約』には、宇宙空間の領有の禁止や平和利用の原則などが定められています」

 そうした国際協力と平和の象徴となってきたのが、ISSプロジェクトだ。ISSには、主要8か国首脳会議(当時)の全メンバー国(アメリカ、日本、カナダ、欧州各国、ロシア)が参加。特にアメリカとロシアという2つの超大国がパートナーシップを結んだ意義は大きく、自国にないものは他国から融通し合う“持ち寄りパーティー”スタイルは、各国の宇宙技術の発展に何役も買ってきたという。

ロシアが脱退してパワーバランスが変化

 しかし今年7月、ロシアが2024年以降ISSから脱退することを表明。今年2月のロシアのウクライナ侵攻を機に、各国の対ロシア関係が悪化したためだ。

 地上でも対ロシア経済制裁に反発して、ロシアの宇宙開発会社がイギリスの衛星打ち上げを拒否したり、ヨーロッパと共同で開発を進めてきた衛星事業からロシア人技術者が一斉帰国したり……多くの宇宙ロケットの打ち上げが困難となった。

「契約していたのにもかかわらず中止となったイギリスの衛星通信企業は約400億円の損失という大打撃を受け、イギリス政府もロシアとの協力関係を見直すという大きな問題へと発展しています。

 もともとロシアは、ビジネスとして他国の衛星を積んだロケットを打ち上げていました。しかもその相場はわりと安価だったので、需要も高かった。ただこうした事情から、来年以降は依頼も激減すると思われます。今年は世界が苦労した分、来年からはロシアが苦労するのでは」(小塚さん・以下同)

月面での作業や暮らしを快適なものにするためトヨタ自動車とJAXAが共同開発した、燃料電池利用の有人与圧ローバ(写真/アフロ)

月面での作業や暮らしを快適なものにするためトヨタ自動車とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が共同開発した、燃料電池利用の有人与圧ローバ。アルテミス計画で採用されるかは未定(C)トヨタ自動車/Best Images/アフロ

無視できなくなった中国の躍進

 そんななか、独自の動きを見せているのが中国だ。有人月面探査や月面基地建設に加え、中国単独の宇宙ステーション建設と運営を目指しているという。

「NASAが発足したのは1958年。当時の中国は3年大飢饉にあえぐなど、経済発展“前夜”でしたが、そのなかで苦労して宇宙開発を続けました。やがて経済大国になった中国としては“いまさら参加してやるものか”という自尊心もある。

 NASAに頼らない独自の開発を目指すことになった中国に対し、アメリカ議会もまた、2011年にはISSプロジェクトに中国の参加は認めないことを決定しています。米中お互いに牽制し合う構図が見てとれます」

 一方、日本はそうした宇宙の覇権争いに10年も20年も後れをとっている状況だ。小塚さんによれば「乗組員が乗船できる大型ロケットを開発できなかったこと」がいちばんの理由で、それにはロケットの価格が高額になることや、国家予算が下りにくいことも関係しているという。緻密さや丁寧さを美徳とする日本人だが、それが仇となり、宇宙の覇権争いに乗り遅れてしまったのだ。

取材・文/辻本幸路

※女性セブン2022年10月27日号

1955年に発射されて以来、“ペンシルロケット”は日本の宇宙開発を支えてきた(時事通信フォト)

1955年に発射されて以来、“ペンシルロケット”は日本の宇宙開発を支えてきた。写真は「SS-520」。世界的にみると打ち上げ数が少ないのが現状(時事通信フォト)

関連キーワード

関連記事

トピックス

谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン