2022年は全国各地で3年ぶりに様々な祭が開催され、有名な祭には大勢の人が集まった。写真は3年ぶりに制限を設けずに開催された、約300年の歴史を誇る「岸和田だんじり祭」(時事通信フォト)
東北地方在住の建設会社経営・小島美津雄さん(仮名・70代)も、林さんと同様、地元に永く伝わってきた祭りが、来年は開催されないかもしれないと危惧している。
「今年は3年ぶりに開催にこぎ着けたものの、参加者は十数名と寂しいものでした」(小島さん)
こちらの祭りも、秋の収穫を祝ったり願ったりする「収穫祭」で、地元を出て都会で働く若者達が、祭りの間だけは帰省し参加することも珍しくなかった。開催期間中は数百~1000人ほどの客がやってくることもあり、唯一残った地域の一大イベントであった。しかし、この3年の間に、そういった習慣もなくなってしまったと話す。
「祭りがあればね、今年も帰ってこいよと声をかけられたし、若い連中も本当は面倒なんだろうけど、義理堅くこちらに戻ってきてくれていた。それがこの3年間の休止で全くなくなってしまいました」(小島さん)
過疎地域の小さな小さな祭事である。住民の高齢化もすすみ「祭りを継承するためには、規模が小さかろうととにかくずっと続けていくしかない」と考えていた小島さんの思いは、コロナ禍によって吹き飛んでしまった格好だ。
「都会に出て行った若い子のお宅を訪ねるとですね、親御さんの反応もね……。あ、まだ(お祭り)やってたんですか、という感じ」(小島さん)
さらに小島さん達に追い打ちをかけるよう、自治体の職員からある打診があったという。
「祭りには、毎年幾ばくかの補助金が出ています。祭りの規模や参加者数に応じて補助金の額が決まるのですが、このままだと補助金を減らすかもしれないと言われています。どうにか必死でやっている時にそれは殺生だと訴えましたが、何処でも同じですよ、といって前向きに考えようとはしない」(小島さん)
現状は「打診」で終わっているというが、わずかばかり出ている補助金までもが打ち切られたりしたら、もはや祭りの開催は絶望的。祭りで披露される舞やお囃子の継承も、人手不足から上手くいっておらず、自治体だけでなく、数少ない参加者全員が「俺たちで終わりだ」と諦めているという。
コロナ禍にも終わりが見え、有名なお祭り、イベントが数年ぶりに開催された、そこに多くの人が集まっているというニュースは多いが、それ以上に、こうして存亡の危機を迎えている祭りやイベントはあるはずだ。今はまだ、やっと元通りの生活が戻ってきた、と浮かれている人々が多数だろうが、コロナ禍がいよいよ明けたとき、かつてはあって当たり前で気にも留めていなかったようなモノやコトが、いつの間にか消えて無くなっていた……、そう驚くことが頻発するに違いない。
そして最後に「おらが村の祭り」が危機に瀕していても、これでよかったとか、ホッとしたという本音を漏らす人たちが少なからずいたことも、記しておきたい。伝統だから風習だからといって、参加が半ば強要されているようであれば、それを悪しきものとして引き継ぎたくない、と考えるのもごく自然な考えだ。最近では「新生活運動」と称し、冠婚葬祭をできるだけ簡素に済ませようと、自治体が呼びかける時代でもある。時代の流れ、と言われれば何事もそう納得するしかない。
しかし「駅前のスーパーが潰れてしまった」と侘しい気持ちになるのとは違い、永く先人達によって受け継がれてきた無二の土着文化である。一度失うと二度と取り戻せないものに違いないはずだ。今我々はまさに文化の断絶の瞬間を目撃しているのに、それに気がついている人は思った以上に少ないのかもしれない。