畑山さんが指摘した通り、冒頭の男性やコスプレ姿のカップルは、渋谷駅周辺をぐるぐる回っては通行人に声をかけ、数人と連絡先の交換を行っているようだった。筆者が「何をしているのか」「マルチ商法などの勧誘ではないか」と質問すると、いずれも足早に立ち去っていったが、今年のハロウィン当日、実際にマルチ関係者と思われる男女から連絡先を聞かれたという都内の女子大生・佐々木菜美さん(仮名・20代)が打ち明ける。
「渋谷駅前を通っていると、いきなり”いい居酒屋や知らないか”と聞かれたんです。相手がコスプレ姿のカップルだったこともあって、ノリで一緒に飲みましょうと誘われ、そのまま居酒屋に行きました。出身地とか学校など聞かれ、本当に当たり障りのない会話だけをし、連絡先を交換して別れました」(佐々木さん)
翌日、カップルの女性からすぐに連絡があり、楽しかった、友達になって欲しいとSNSで告げられたが、すぐに話は「金持ちになりたくないか」「自分はその勉強をしている」「お世話になっている人がいる」などと怪しげな話を持ちかけてきたという。
「ネットニュースなどでも、そういう勧誘をしているマルチ集団がいると知っていたし、学校でも注意喚起が出されていたのですぐにピンときました。Xという集団ではないかと問い詰めると、そんなの知らない、全然違うと返信が来ましたが、その後連絡はぱったり止みました」(佐々木さん)
今年のハロウィンでは、この「X」だけでなく、存在しない仮想通貨への投資を促す詐欺まがいグループのメンバー、社会問題化している勧誘などで知られる宗教関係者までが繁華街に集い、喧噪の中、人並みを縫うようにして通行人を吟味し、声かけを行っていた。その様子を目撃したのは、都内の民放局ディレクター・野島光さん(仮名・30代)。
「ちょうどマルチやカルト宗教関連の取材をしていたところ、ハロウィンは勧誘が激しいと聞いたので様子を見に来たんです。現役の勧誘者によれば、ハロウィンほど声かけのハードルが低いイベントはないと鼻息も荒い。SNSだと悪評が広まっているため、リアルでの声かけに励む者も多いらしいのですが、3年ぶりのハロウィンは連中にとっても待望の機会だったのでしょう」(野島さん)
SNSでは、いきなり誘いを持ちかけても怪しまれることのほうが多い。勧誘の成功率をあげるため、彼らは時間をかけて趣味の何かの集まりと見せかけたタイムラインやグループへ引き込み、気心が知れた信用できる人間だと思わせる。そこから、ようやく実際に会って本格的な勧誘に踏み出すのだ。リアルで会ったあとも、相手の様子をうかがいながら慎重にすすめるので、時間がかかる。その手間が、ハロウィンのお祭り騒ぎではショートカットできるのだ。
コロナ禍以前の「元通りの生活」が戻りつつあるが、マルチやカルト関係者もまた、以前のような活動を再開させている。全く歓迎できるものではないが、彼ら彼女らもまた、早く新たなターゲットを見つけようと死にものぐるいなのかも知れない。人が集まりやすい場所では、コロナ感染だけでなく、こうした脅威にも注意が必要だ。