ドイツ戦の決勝ゴールをきめた浅野拓磨 (時事通信フォト)
後になって、私はサッカーのことをたいしてわかっていないのになんであんなに熱狂したのだろうと不思議になった。特殊な興奮状態だったのかもしれない。自分の中の何かが麻痺するような。周囲の雰囲気に簡単に流され、頬に日の丸を貼って、浮かれまくった。古市さんがあの場にいたら、どうしたのだろうか。いや、そもそも彼なら行かないよね、パブリックビューイングには。
繰り返すが、日本代表の活躍に水を差す気はさらさらない。でも、「関心がない」とテレビで堂々という古市さんのような存在は必ずいなければならない。知ったかぶって適当に相槌を打つスポーツ選手より、ビジネス的においしいから知識を身につけたタレントより、ずっと必要ではないだろうか。誰しもがサッカーに関心があるわけではないし、日本人だから必ず日本代表を応援しているわけでもない。
ドイツ代表の試合前の「口封じ」のポーズについて、もっと報道されてもいいのにと思った。日本戦が始まる前、写真撮影に応じるドイツの選手たちが皆、右手で口を覆っていたのは FIFAへの抗議の意味だという。大会前、ドイツを含むヨーロッパの7ヶ国の主将たちは「ONE LOVE」という文言とハートマークが入ったレインボーカラーの腕章をつけることになっていた。
しかし、 FIFAはこれを禁止されている政治的なメッセージとし、またカタールではそうした活動は違法となるという理由から、着用を禁止した。口を封じるジャスチャーでそれに抗議しているというわけだ。ベルギーの選手は、そんなことをしているから日本に負けたのでは?といった発言をしたそうだが。
日本代表にもこれくらいの行動をして欲しいと思っているのではない。こうした国を代表するチームの個性を味わうのも、きっとワールドカップの楽しみだろうから。
◆甘糟りり子(あまかす・りりこ)
1964年、神奈川県横浜市出身。作家。ファッションやグルメ、車等に精通し、都会の輝きや女性の生き方を描く小説やエッセイが好評。著書に『エストロゲン』(小学館)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)など。最新刊『バブル、盆に返らず』(光文社)では、バブルに沸いた当時の空気感を自身の体験を元に豊富なエピソードとともに綴っている。