少女歌手でデビューして一躍有名になったのに、あることをきっかけに表舞台から消えて、再び『おもいで酒』が大ヒットするまでの紆余曲折は何度も語られていたけど、本人に会って改めて話を聞いたら、きっと通り一遍でない話が聞けるに違いない、とそう思ったのよ。
案の定というか想像以上というか、いまでも私はそのとき彼女が語ったことを空で言えるほどで、彼女の話の組み立てのすばらしさといったらないんだわ。
すっかり引き込まれてしまった私は、そこで終わればいいものを、最初は取材を受けることすら渋っていた彼女にどうしても伝えたいことが一気にあふれ出してしまったんだわ。
「あのぉ、紅白って終わってますよね」
そう言ったとたん、小林さんは「ええ〜っ!? 紅白が終わっているってぇ〜」とざっくばらんな調子でスタッフの方を振り向いた。ちょっとあせった私は、「いやいや、番組の存在価値がなくなったという意味ではなくて、家族そろって紅白を見て除夜の鐘を聞いて初詣に行くという“大晦日の行事”としての紅白が終わっている、という意味なんです。現に私だって、ここ何年も大晦日は実家に帰ってないですし」とつけ加えた。
まったく一雑誌記者が国民的歌手になんてことを言ってしまったのかと、いま思い出すと顔から火が出るけど、小林さんは黙ってうなずきながら聞いてくれている。
「そうした中でも、小林さんがどんな衣装で紅白に出るか、それが楽しみでその瞬間だけ視聴率が上がるって聞いています。そりゃあ、いろいろ言いたい同業者は出てくるんじゃないですか? 悪く言われてナンボじゃないですか?」
そこまで言ったら、「そうだよね。言われてナンボ、そう、言われてナンボか……」と独り言のように言いながら、小林さんは何度もうなずいたの。インタビュアーの無鉄砲をちゃんと正面から受け止めてくれたのよね。
それから時が流れ、小林さんも去った紅白だけど、私はここ数年、消音モードで見ているの。リモコンを持ってチラチラとテレビを視界に入れながら用事をして、ここぞというときに音量アップ!! これ、キラキラ画面を楽しみながらイラつかない最良の見方だと思うけど、どうかしら。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2023年1月1日号