北海道・知床半島にある斜里町は、深い悲しみに覆われたまま静かな年末を迎えようとしている。2022年4月23日、斜里町の乗船場を出航した遊覧船「KAZU I」が知床半島沖で沈没した。乗員乗客26名のうち20名の死亡が確認されたが、6名がいまだ行方不明。12月15日に運輸安全委員会が発表した経過報告書には、乗客と家族が携帯電話で交わしたやりとりが綴られた。
「浸水して足までつかっている。冷たすぎて、泳ぐことはできない。飛び込むこともできない」「今までありがとう」──。
さらに報告書には、沈没の経緯も記された。船首にあるハッチの蓋が外れ、客室の窓ガラスが割れたことで大量の海水が船内に流入したと推定されている。原因解明が進む一方で、斜里町の観光業には深刻なダメージが残っている。
「クルーズ船は大型船も含めて大打撃を受け、お客さんは7〜8割は減っている。休日でもお客さんが少なすぎて運航しない便もあります」(ほかの遊覧船会社スタッフ)
周辺の宿泊施設や飲食店関係者から聞こえてくるのも「このままではやっていけない」という悲痛な声ばかりだ。
事故発生当時、「KAZU I」の運航会社社長・桂田精一氏の会見内容も大きな批判を呼んだ。船の不具合を放置し、ずさんな運営管理をしていたとされる同氏は、事故発生から4日後に開いた会見で「自然現象なので、天気図が常に正確に当たるわけではない」「事故原因はわからない」などと責任を回避するような発言を繰り返した。
桂田氏は遊覧船の運航会社のほか旅館を経営していたが、6月に退任。桂田氏の父・鉄三氏が代表取締役に就いた。旅客船事業の許可は取り消されたが、旅館業は継続中だ。
「元気そうですよ。精一さんが車で颯爽と出掛ける姿をよく見かけます。ただ、以前はスーパーで会話をすることもあったのですが、いまは無言です。町全体に迷惑をかけたのに、事故後の町の会合に顔を出しても現在に至るまで謝罪の言葉はありません」(斜里町の住民)
さらに、周囲が驚かされたのが鉄三氏の提案だった。
「『事件のことでいろいろとお世話になったから、町のために温泉施設をつくりたい』なんて言って、各方面に相談しているんです。そんなことで罪滅ぼしになるわけがない。まだすべての乗客が家族のもとに戻れていないのに、あまりの無神経さに唖然としました」(前出・斜里町の住民)
遺族の弁護団団長を務める山田廣弁護士が語る。
「いまだ遺族への謝罪はありません。桂田氏は運航管理者として自分の監督不行き届きをどう捉えているのか。真摯な謝罪を受けたいというのが遺族の気持ちです」
第1管区海上保安本部は早ければ2023年1月にも桂田氏を業務上過失致死の疑いで立件する方針だという。悲劇は二度と繰り返してはならない。
※女性セブン2023年1月5・12日号