東京・すみだランニングサポートクラブの監督を務める
教え子には「箱根の先を見据えるような選手になってほしい」
優勝を期待された早大は、準優勝に終わってしまう。だが、箱根を走った4年間は、大学卒業後の武井たちに大きな影響を与えた。
三羽烏は、いま箱根の経験を活かして後進に向き合っている。今年箱根に出場する城西大学を監督として率いる櫛部を変えたのは1年次の箱根だった。2区を走った櫛部は、脱水症状を引き起こし、フラフラになり、13人に抜かれながらもタスキリレーをした。天真爛漫な性格の櫛部が、陸上に人生を賭けるきっかけになったように武井には感じられるのだ。花田は、就任したばかりの母校早大の監督として箱根に帰ってくる。武井は花田について「理論的で、人間性を高める指導をする」と評する。
武井たちを指導した瀬古利彦は常々「箱根駅伝で終わるな。箱根を通過点にしてトラック、マラソンで世界に通用する選手になれ」と語った。その言葉通り大学を卒業した三羽烏は日本代表として活躍した。武井は苦笑いする。
「私と櫛部君はアジア大会止まりだったけれど、花田君はオリンピックに2回も出た。その点では悔しいんだけど、大学時代の努力が社会人になってから実を結んだんです」
現役引退後、武井はS&B食品監督や、早稲田実業高等学校陸上部コーチを歴任した。すみだランニングサポートクラブにも将来的に箱根を狙える力を持つ中高生が所属する。箱根を目指す教え子にはぜひあの舞台で活躍してほしいと武井は思う。
「でも、同時に、箱根の先を見据えるような選手になってほしいなと感じるんです」
(文中敬称略)
◆取材・文/山川徹(ノンフィクションライター)