米ハーバード大学の研究チームが1999〜2015年にかけてアメリカ在住の18才以上の1万1747人(男性5681人、女性6066人)を対象とした追跡調査でも、PFASの血中濃度が高い人は低い人に比べて全死因死亡率で1.57倍、心臓病死亡率で1.65倍、がん死亡率は1.75倍高いという結果が出た。
PFASの厄介なところは水俣病のような特定の病気の原因になるわけではなく、さまざまな病気の発生確率が上がるところにある。その危険性は1970年代から指摘されていた。PFAS問題に詳しい京都大学大学院医学研究科准教授の原田浩二さんが解説する。
「私が属する研究室には過去の日本人の血液サンプルが保存されており、実際に1970〜1980年代の血液からは高濃度のPFASが検出されています。2000年にPFOSを製造していた米・3M社が自主的に製造中止を発表。2009年には国連のストックホルム条約会議で製造や使用が制限され、翌年には日本でも化学物質審査規制法の規制対象になり、製造・使用が原則禁止になりました。徐々に人々の血中濃度も下がり、一件落着かと思った矢先、今回の水道汚染が発覚したのです」
子供のワクチンの抗体ができにくい
言うまでもないが、水道は生活に欠かせない重要インフラの1つ。飲み水として口に入るだけでなく、料理や洗濯、入浴、歯磨き、トイレなど多くのことに不可欠だ。しかも、日本の水道水は世界でもトップクラスの安全性を誇っていただけに、驚きは大きい。市民団体の共同代表を務める根木山幸夫さんはこう話す。
「多摩地区の水道水は河川の水だけでなく、豊富な地下水を水源として利用してきた歴史があります。ところが2019年末、国分寺市と府中市の浄水所で井戸から高濃度のPFASが検出され、くみ上げを停止したと東京都水道局が発表したのです。
ほかの井戸の水や川の水を混ぜて濃度を下げるとの説明でしたが、同時に長く汚染された水を飲み続けてきたことも明らかになったということ。これは住民としても青天の霹靂です」
国分寺市は環境省の名水百選に選ばれた「お鷹の道・真姿の池湧水群」を擁する水自慢の土地柄だが、なぜこんな事態になってしまったのか。
「米軍の横田基地が汚染源として疑われています。基地では航空機火災の訓練を長年頻繁に行っており、使用される泡消火剤にPFASが含まれているのです。泡消火剤が風に乗って20km以上飛散し、長い年月を経て地中に染みて、地下水を汚染したとみられます」(根木山さん)
とはいえ、横田基地は国分寺市から10kmほど離れている。そこまでの広範囲が汚染されるものなのだろうか。
「地下水は時間をかけて少しずつ地下深くまで染みていきます。地表からの水に有害物質が含まれていた場合、すぐに影響が出るのは浅い層だけで、距離が遠い深い層は時間はかかりますが、確実に汚染されていくのです。特にPFASは、残留しやすい『永遠の化学物質』です。また、関東の平野では西から東に向かって地下水の流れがあることが知られている。その流れに乗って遠くまで届いてしまったのでしょう」(原田さん)