ライフ

図鑑で読み解く歴史的絵画の工夫と魅力 「形の見えない雨」「その人らしさ」をどうやって描いてきたのか

歌川広重 「名所江戸百景」大はしあたけの夕立 1857年 大判錦絵 シカゴ美術館

歌川広重 「名所江戸百景」大はしあたけの夕立 1857年 大判錦絵 シカゴ美術館(C)The Art Institute of Chicago

 古今東西の名画約360点を紹介する絵画図鑑『小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画』が発売即重版、早くも10万部突破で話題となっている。子ども向けとあなどるなかれ。名画がユニークな切り口で解説され、謎解き感覚で鑑賞のポイントを押さえていけるのだ。頭をやわらかくして「絵画の世界」へ飛びこもう。【前後編の後編。前編から読む

形の見えない雨はどう描く?

 決まった形があるわけではなく、目にもとまらない速さで降る雨。絵師や画家たちは知恵を絞り、工夫を凝らして雨を描いた。

●雨を描かず、雨を感じさせる

カイユボット パリの通り、雨 1877年 油彩 カンヴァス 212.2×276.2cm シカゴ美術館

カイユボット パリの通り、雨 1877年 油彩 カンヴァス 212.2×276.2cm シカゴ美術館 (C)The Art Institute of Chicago

【カイユボット『パリの通り、雨』(1877年)】
 雨の風景の絵だが、よく見ると、雨そのものは描かれていない。しかし、傘をさして歩く人々をはじめ、しっとりと濡れて光を反射している街路の石畳、曇った空、湿気を含んだ鈍色の空気などによって、パリの街に雨が降っていることを見る人に感じさせる。

●降り注ぐ雨音が聞こえてくる

歌川広重 「名所江戸百景」大はしあたけの夕立 1857年 大判錦絵 シカゴ美術館

歌川広重 「名所江戸百景」大はしあたけの夕立 1857年 大判錦絵 シカゴ美術館 (C)The Art Institute of Chicago

【歌川広重『「名所江戸百景」大はしあたけの夕立』(1857年)】
 歌川広重は、激しい雨の様子を直線で表現するという発想でアッと言わせた。角度と濃度の違う2種類の斜めの直線を組み合わせることにより、絵に奥行きを生み出した。霞んだように見える遠景と、橋の上を急ぐ人々の慌しさが雨の激しさを強調する。ザーザーと降り注ぐ雨音が聞こえてきそうだ。

世界の巨匠を魅了した日本の浮世絵

 江戸時代の日本の浮世絵は、ヨーロッパに伝わると多くの画家の関心を集めた。巨匠と呼ばれる画家たちの絵には、浮世絵の描き方やテーマを取り入れた作品が数多くある。

●ゴッホも思わずマネをした雨の描き方

ゴッホ 日本趣味・雨の大橋(広重による) 1887年 油彩 カンヴァス 73.3×53.8cm ゴッホ美術館 アムステルダム

ゴッホ 日本趣味・雨の大橋(広重による) 1887年 油彩 カンヴァス 73.3×53.8cm ゴッホ美術館 アムステルダム(C)PPS通信社

【ゴッホ『日本趣味・雨の大橋(広重による)』(1887年)】
 画家ゴッホは、上述した「大はしあたけの夕立」に描かれた雨を見て驚いたという。それまで、雨を斜めの直線で表現する描き方を見たことがなかったからだ。ゴッホはこの浮世絵を丁寧に写し取り、上の絵を描いた。橋、歩く人々、川、空がゴッホ独特の色彩とタッチで描かれている。漢字をまねた模様が絵の周囲に描かれているのも興味深い。

●自宅に日本風の橋を架けたモネ

モネ 睡蓮の池、緑のハーモニー 1899年 油彩 カンヴァス 89.5×92.5cm オルセー美術館 パリ

モネ 睡蓮の池、緑のハーモニー 1899年 油彩 カンヴァス 89.5×92.5cm オルセー美術館 パリ(C)PPS通信社

【モネ『睡蓮の池、緑のハーモニー』(1899年)】
 浮世絵に描かれた植物の自然な姿に心を打たれた画家モネは、下の絵に描かれているような日本風の丸く反った橋を自宅の庭に造り、絵に描いた。左の絵のヤナギの枝が池に垂れ下がっている庭は、広重が描いた「亀戸天神境内」に似ているとされる。

歌川広重 「名所江戸百景」 亀戸天神境内 1856年 大判錦絵 メトロポリタン 美術館 ニューヨーク

歌川広重 「名所江戸百景」亀戸天神境内 1856年 大判錦絵 メトロポリタン 美術館 ニューヨーク(C)The Metropolitan Museum of Art, New York, The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936


関連記事

トピックス

筒香が独占インタビューに応じ、日本復帰1年目を語った(撮影/藤岡雅樹)
「シーズン中は成績低迷で眠れず、食欲も減った」DeNA筒香嘉智が明かす“26年ぶり日本一”の舞台裏 「嫌われ者になることを恐れない強い組織になった」
NEWSポストセブン
テレビの“朝の顔”だった(左から小倉智昭さん、みのもんた)
みのもんた「朝のライバル」小倉智昭さんへの思いを語る 「共演NGなんて思ったことない」「一度でいいから一緒に飲みたかった」
週刊ポスト
陛下と共に、三笠宮さまと百合子さまの俳句集を読まれた雅子さま。「お孫さんのことをお詠みになったのかしら、かわいらしい句ですね」と話された(2024年12月、東京・千代田区。写真/宮内庁提供)
【61才の誕生日の決意】皇后雅子さま、また1つ歳を重ねられて「これからも国民の皆様の幸せを祈りながら…」 陛下と微笑む姿
女性セブン
筑波大学・生命環境学群の生物学類に推薦入試で合格したことがわかった悠仁さま(時事通信フォト)
《筑波大キャンパスに早くも異変》悠仁さま推薦合格、学生宿舎の「大規模なリニューアル計画」が進行中
NEWSポストセブン
『世界の果てまでイッテQ!』に「ヴィンテージ武井」として出演していた芸人の武井俊祐さん
《消えた『イッテQ』芸人が告白》「数年間は番組を見られなかった」手越復帰に涙した理由、引退覚悟のオーディションで掴んだ“準レギュラー”
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
「激しいプレイを想像するかもしれませんが…」田村瑠奈被告(30)の母親が語る“父娘でのSMプレイ”の全貌【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン