「つけびして」の貼り紙を犯人が掲げたこと以外にも、集落では、驚くべきことが多くあった(時事通信フォト)
「親父がコレじゃったけね」
人差し指をフックのように丸めながら、ある村人は言う。保見の父親が泥棒だったというのである。
そしてまたある村人は、こちらが真顔で事件のことを尋ねているのに、「夏はね、亡くなった山本さんやら貞森さんやら、石村さんやらとね、ホタルでも出たらね、夕方に『ホタル見よう』ゆうてから、仕事から帰ってね、おかずの一品でも作って、皆で集まってビール飲みよったけど。みーんな、その仲間は、殺されてしもうたね。あはははは……」と、なぜか高らかに笑うのだ。
いったい、この村はなんなのだ。保見が事件を起こす前から、泥棒や放火といった悪事が日常としてあったのか?
【了。前編から読む】
※文庫『つけびの村 山口連続放火殺人事件を追う』から一部抜粋