「日本語で話している時の自分と、イタリア語の自分は人格が違います。声の出し方も、リアクションも、仕草も変わります。違う生き物、別人です。
日本での時間が、自分の日本語には全部入っている。記憶や経験、過去の荷物が言葉の中に全部含まれていて、それが今も続いている。だから、私にとって日本語は『ただの言葉』『外国語』じゃないんですよね。日本語で生きてきた自分がいるんです」
言葉と、生きることは結びついているのだ。
「今年、5年ぶりにイタリアへ帰るんです。以前は2~3年ごとに帰っていたんですが、コロナ禍だったので間が空いてしまって。
イタリアへ帰ると、あらゆる音が耳に入ってきて、最初はすごく疲れるんですよ。日本だと電車の中で本を読んだり、考え事をしたりできるんですが、イタリアではどこにいても、小さい声でも全部『聞こえて』くるので、脳内がお祭りみたいになっちゃうんです。
今回はどんな感じなのかなあ……ちょっと心配ですけど、久しぶりに『イタリア語の自分』になるのが楽しみです」
(了。第1回から読む)
【プロフィール】イザベラ・ディオニシオ/1980年生まれ、イタリア出身。ヴェネツィア大学で日本語を学び、2005年に来日。お茶の水女子大学大学院修士課程(比較社会文化学日本語日本文学コース)修了後、現在まで日本でイタリア語・英語翻訳者および翻訳プロジェクトマネージャーとして活躍。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。