范文雀さんと共演した若林さん
「自分では、1973年に日本テレビ系で放送された『けんか安兵衛』の中山安兵衛(後の堀部安兵衛)役が好きです。単発作品ですが、安兵衛は人間味があって飾らず、のんべえ(大酒飲み)なのに、刀を持つと強い、というところが格好いい。現代劇はリアルな今の世界の話として視聴者は見るから、非現実的な展開になると受け入れられなくて、あれもダメ、これもダメとなりがち。その点、時代劇は案外、自由なんですよ。時代劇には夢があります」
俳優デビューから60年弱。振り返って今、どのようなことを思うのか。
「島田先生、辰巳先生という、違うタイプの2人の師匠に、それぞれの良いところをそばにいて教われて幸せでした。島田先生は緻密に計算して演じるタイプ。僕はよく『もう少し真面目にやれ』と叱られました。一方、辰巳先生は“役者は自分の柄でやるんだ”というタイプ。普段は長靴を履いて歩いているのに、いったん舞台に立つと光り輝いていました。両極端なのに2人とも素敵で、先生たちのようになりたい、と思っていました。
良き時代の良き俳優さんらと共演できたことも、僕の宝だと思っています。三船敏郎さん、萬屋錦之介さん、北大路欣也さん、松方弘樹さん……。振り返ると、本当に夢みたいです」
83歳となった若林豪は、「1人でも2人でも」観ている人のために一生懸命演じ続ける。
(了。前編から読む)
取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/山口比佐夫
(告知)7月8日(土)、千葉市文化センター3階アートホールで視覚障害者支援チャリティー公演『声の花束 吉成庸子作品朗読と歌の会2023』の舞台に立つ。