「マイナちゃん」社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度の政府広報キャラクター。日本に住民票がないとマイナンバーは持てない(イメージ、時事通信フォト)

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こんな大きな儲け話が自分にくるのは最初で最後

 Mからは頻繁にメールが届いた。香港で投資銀行を作るため中国の銀行から融資を受ける、マレーシアにある会社に金を融通するためにスイスの銀行から金を送金する、そんな話が次々とあり、プロジェクトは順調に進んでいるように聞かされた。理事長とのメールのやり取りも見せられた。だがいざ話が具体的になると着金が遅れ、融資が延期する。「『おかしくないか』と問い合わせると、『海外の銀行を経由する融資の話は複雑で、バーゼル規制とかもあるし、為替の問題もある。先生ならわかるでしょう』と言われて、黙ってしまった」。

 Mは海外と日本を往復していたようだが、日本に来ると滞在資金がなくなった、ホテル代が足りなくなった、ノートパソコンが壊れたなどといって、その度にA氏に金を無心していた。金の振込先として、ある女性の銀行口座を指定され、そこに金を振り込んだ。儲かればそれぐらいの金はすぐに取り戻せると思っていたA氏も、2年近くなりさすがにおかしいと思い始めた。

 するとMは理事長に会わせると言い出した。連絡がついた、日程をもらった、リスケしたというメールはくるが、いっこうに面談はできない。業を煮やしたA氏はついに理事長に直接電話をかけた。

 理事長は電話に出なかった。いや出られなかったのだ。電話を受けた秘書は理事長は入院中だと答え、Mという名前は聞いたことがないと答えた。「Mが送ってきた理事長のメールアドレスはフリーメールだった。なぜそれをおかしいと思わなかったのか。Mの話を信用してしまい、変だなと思いつつMを疑おうとしなかった」という。

 調べてみると、Mには前科があった。ネットで名前を検索すると、過去に逮捕されたニュースが出てきたのだ。「こんな大きな儲け話が自分にくるのは最初で最後だと思うようになっていた。途中からは変だな、騙されたのかもしれないと薄々感じながら、いや違う、そんなことはないと自分で否定するようになっていた。事実を冷静に見られなかった」とA氏はこの時の心境を語る。弁護士に会計士、税理士、司法書士、行政書士と”士業”の人達をターゲットに狙う詐欺師は以外と多いと、元刑事に聞いたことがある。「先生だから」「先生にだけ」「先生なら」と言われるうちに、なぜか詐欺話を信用してしまうらしい。

 詐欺師は被害者のそんな心理を巧妙に利用して罠を仕掛ける。A氏は警察に相談し被害届は受理された。Mが指定した口座は凍結されたが、捜査は進展していない。A氏が振り込んだ金は戻ってこないままだ。

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