鴻江寿治氏(左)と峰幸代選手(中央)と渥美万奈選手(右)
北京五輪で上野投手に起きていた「非常事態」
鴻江氏は、前出の上野投手の個人トレーナーも務めている。北京五輪で、上野投手は2日間で3試合をひとりで投げ抜き、「上野の413球」は語り継がれる伝説だ。
「あの熱投の裏側では、上野投手に異変が起きていました。原因のひとつは、日本の柔らかいマウンドに比べて、北京の球場のマウンドが固かったこと。本来、右腰が前に出ている『うで体』タイプのはずの上野投手でしたが、地面が固いために踏み出す左足側に壁ができ、右腰が前に出てこなかった。そのため、ピッチングが非常に不安定になっていたのです。
ピッチャーは足を着いてから足首、ひざ、腰、肩、首のバランスをとりますが、それが崩れていました。『うで体』『あし体』の特性を生かした投げ方をアドバイスし、なんとか修正しました」(鴻江氏)
講演シーンに戻る。鴻江氏は、最後に参加者に対してこう語った。
「トップアスリートも、1人の人間であることに変わりません。であれば、彼らが日々自分たちの体に感じていたりすることは、一般の人にも充分適用できると考えています」
鴻江氏は、6月に出身地の福岡県八女市で行われた講演会にも登壇していた。人口6万人ほどの同市では、約300名の参加者が会場に。質疑応答タイムでは、参加者らをステージに上げ、手取り足取りの実践モードで体の悩みと向き合っていた。
「ありがたいことに、全国の自治体などからの依頼をいただいており、今後も講演活動を続けていきます。人生100年時代を迎え、より健康寿命を延ばすことへの注目が集まっています。私の理論で、1人でも多くの方が元気に体を動かし続けられるようにできるといいですね」(鴻江氏)
取材・文/祓川学