DNAは細胞の核にもミトコンドリアにも含まれるが、細胞1つに核は1つしかないもののミトコンドリアは複数ある。ただミトコンドリアDNAは非常にコンパクトなため遺伝子情報も核DNAと比較してかなり少ない。警察が現在、鑑定するはもちろん核DNAだ。
「以前、ミトコンドリアDNAは容疑者の目星をつけるのに便利だと考えられていたが、その個人識別精度は1000人から2000人に1人程度に過ぎなかった」(同)
拉致された横田めぐみさんは自殺して火葬されたとして北朝鮮が日本に提供した「遺骨」がDNA鑑定で別人のものと判明したのは、焼かれた骨に付着した細胞片から核は検出できなかったが数の多いミトコンドリアはわずかながら検出できたから。簡易鑑定で同一人物の可能性が出た消防団員は結局、詳しい鑑定で“シロ”と判明した。
「尻尾をとらえたかも」と話した刑事も定年退職。先日、再会した際に今回は私へこう語りかけた。「柴又は本当に心残り。ご遺族に申し訳なく、小林さんご本人には弁明の余地もない。時効がなくなり捜査が続く以上、今の人(後輩)にはどうにか解決して欲しいというのが本音だよ」。紆余曲折あるDNA鑑定への過信が生んだ未解決事件は9月で発生から27年となる。
【プロフィール】
大島真生(おおしま・まなぶ)/1968年東京生まれ。新聞記者。早稲田大学政治経済学部卒業。産経新聞で警視庁や警察庁、宮内庁などの担当を歴任。著書に『公安は誰をマークしているか』『愛子さまと悠仁さま』『特捜検察は誰を逮捕したいか』など。