「確かにね。ただ、『この国だったらなんとかなる』って思ったんですよ。国民性がフィンランドに近いんじゃないかな? っていう、予感めいたもの。だから、表面的には一瞬の思いつきではあるんだけど、自分の奥深くにある軸や芯に触れたというか、たぶんそんな何かがあったんじゃないかと思います。
でも、日本への留学はお金がちょっと高かったので、親になかなか言えなかったんですね。で、妹に『なんかちょっと日本行きたいんですけど……』ってこっそり打ち明けたら、妹が母に『お姉さん、日本に行きたいらしいよ』ってすぐ言っちゃって(笑)。そしたら母は『日本は安全だし、他の人ができないことを学べるんじゃない?』と、思いがけずすんなり賛成してくれました。
留学先で人気だったのはフランスで、それはやっぱりフランス語を学んでおけばヨーロッパでの仕事に役立つからなんですけど、母は『ラウラはシャイだから、フランスは合わないかもしれない。日本だったら性格が合うかもしれないよ』って言ってくれました。フィンランド人ってすごくシャイな人が多いんですよ。私も当時は恥ずかしがりやなところがあったので、母の言葉が後押しになりました」
面接に合格し、函館白百合高校に入学。ホームステイしながら学校に通った。
「フィンランドでひらがな、カタカナを頑張って覚えてから日本へ行ったんですけど、会話は挨拶程度。ホストファミリーのご家族が、私の日本語をきちんと直してくれたのはありがたかったですね。『おはよう』って言うと『〈おはようございます〉だよ』というような感じで、面倒くさがらず指摘してくれました。『いいよいいよ、外国人だから』みたいに扱われなくて本当に良かった。いいご家族に恵まれました。
ただその家が学校まで遠くて、片道3時間かかったんですよ。部活に入りたかったので別の家にステイさせてもらうことになったんですが、ちょっとうまくいかなかったんです。
私がまったく気付かずに、その場に相応しくないようなことを言ってしまった時が、たぶんあったんですよね。その場では指摘はされなくて、時間が経ってから『あの時、こう言ってたけど……』と、ことわざとかを使って教えてくれたりしたんです。だけど、当時はことわざも、微妙なニュアンスも分からないし、分からないことすら分からないから、質問もできない状況でした。遠回しに伝える、迂回して説明する文化が日本にはあるんだと気付いた最初の経験でした。
3つ目のホームステイ先のお父さん、お母さんにはすごく良くしてもらいました。フィンランドの母が日本のお母さんに会いに来たり、今も家族ぐるみでお付き合いさせていただいています。この間も電話したばかりです」
(第2回に続く)
【プロフィール】ラウラ・コピロウ/フィンランド生まれ。フィンランド大使館商務部上席商務官。ファッション・ライフスタイル担当。高校生の時、北海道・函館に留学し、大学で早稲田大学に留学。その後、国費留学生として北海道大学大学院に入学し、修了。日本大手企業での就職を経て、2018年から現職。パフェ愛好家としても知られ、インスタグラム(@laura_finrando)には美味しそうなパフェの写真が並ぶ。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。