松本事件では教団捜査の「Xデー」が囁かれていた

「その名前は捨てました。麻原彰晃と申します」──。1996年4月24日、東京地裁で開かれたオウム教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の初公判における人定質問で、戸籍上の名前は松本智津夫ではないのかと問われた麻原元死刑囚は、こう回答した。

 検察側の冒頭陳述は翌25日の第2回公判で行われることとなったが、これに合わせて開示された冒陳のコピーには「午前三時ころ、第七サティアン一階」で予行練習が始まって「午前五時過ぎころ、渋谷」に向かい、地下鉄サリンが実行された経緯が詳細に記されていた。背中を冷たい汗が伝ったのは、既に異動で東京本社勤務となり業務でこの文面に刮目していたから。事件に巻き込まれる危険は誰にでも身近にある事実を本当に痛感させられた。

〈富士ケ嶺で深夜に異臭 住民『オウム教施設から』〉──。長野県松本市の住宅街で松本サリン事件が起きたのは1994年6月27日。発生直後は近隣住民の男性の犯行が疑われていた。そんな中の7月9日午前1時ごろ、山梨県警富士吉田署に異臭が発生し「耐えられない」との通報があり、山梨日日新聞の10日付朝刊第2社会面のトップ記事として、この見出しと記事が掲載された。

 その異臭騒動があったのが、見出しにあった上九一色村の「富士ケ嶺」。まさにサティアン群のある地区だった。騒動を受けて警察庁、長野県警、山梨県警は異臭があった第7サティアンの周辺から土壌を採取して成分を分析。翌年元旦の読売新聞朝刊1面のトップ記事として〈サリン残留物を検出 山梨の山ろく 『松本事件』直後〉との見出しが躍ったのだ。

 これを契機にマスメディアの記者たちの間では「近くオウム施設の一斉(家宅)捜索が始まる」「Xデーはいつだ」といったやり取りが“合言葉”のようになっていた。

 余談だが、新聞業界では同じ日に制作する新聞紙面について、印刷所から遠いために締め切り時間が早いものは早版、遅いものは遅版、遅版でも特に東京の中心部などに届けられるものを最終版と呼んだりするが、最終版で富士山の「山ろく」となっていた見出しが甲府市内で配達された新聞では「山中」となっていた。見出しをつけた人は富士ケ嶺が上九一色村のどの辺に位置するのかを把握していなかったのだろう。

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