2022年の改正道路交通法でタクシー運転手の年齢が21歳以上から19歳以上に緩和されたが、それがドライバー増につながるかは不透明だ。
「いまどき若いうちからタクシードライバーになろうなんてわずかですよ。私の息子たちを見たって同じ仕事につこうなんて思わない。私だって勧めませんでした」
彼いわく「もう昔のようには稼げない」「不規則、不安定、重労働」「仕事のイメージ」とのことで、あくまで私見とはいえ業界の厳しい内情がうかがえる。それでも今回の「乗務員の氏名掲示義務」はこれまでにない画期的な改正のように思う。
タクシードライバーだけでなくバスの乗務員にとっても「ようやく」といった声がある。4月、秋田県のバス会社が地元新聞に「その苦情、行き過ぎじゃありませんか?」と題した意見広告を掲載したことが話題となった。
〈近年、些細なことで理不尽なクレームや過度な要求をするお客様がおられます。確かに、当方に非があり、お詫びする場合もありますが、社内外のドライブレコーダーで確認し、非がないことをお伝えしても一方的に攻撃されます。(中略)お客様と社員は対等の立場であるべきで、お客様は神様ではありません。今後、理不尽なクレームや要求には、毅然とした対応を取り、場合によっては乗車をお断りいたします〉
この内容がSNSを中心に拡散され、多くの賛同があった。クレーマーはごく一部、ストーカーもごく一部だが、そうした「ごく一部」が大多数のために日夜働く人々を苦しめる、同時に利用者も苦しめる。この国のタクシードライバーの減少、バス路線の廃止が続く中、今回の「乗務員の氏名掲示義務」の廃止も含め、労働者のため、一般乗客のための施策が今後も進められるだろう。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。