また、万城目作品でつい目を奪われがちな奇想天外な展開も、著者の認識では「ほんの1、2割」だと。
「『都大路』で言えば、突然5区を任された1年生選手の不安とか、試合の翌日に新京極を友達と歩いている微笑ましい光景が9割で、沿道に例の集団が出没する前が、あくまでもメイン。そして残り1割も全く同じ温度で書いてこそ、読者は1の不思議を7か8くらいに読んでくれるみたいです。
あと、僕は北京五輪にも観戦記を書くために行っていて、シャオさんみたいに授業の一環で座らされた小学生とか、『慎之助、ほり込んだれ~』ってダミ声で叫んでる1人藤井寺的なオッサンが本当にいたんですよ(笑)。そういう景色も使いつつ、彼らと野球したしなあ、次の試合も来てくれへんかなあと、ダメダメ大学生の朽木が思うくらいの一線を、せめて深刻ぶらずに共有できたらいいのかなあと」
だからこそ若気の至りの数々やその輝きを一層優しく見守る万城目文学の新境地は、青春小説のあり方としてとても新しいと思う。
【プロフィール】
万城目学(まきめ・まなぶ)/1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、会社勤務を経て、2006年に第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『鴨川ホルモー』でデビュー。『鹿男あをによし』『偉大なる、しゅららぼん』『プリンセス・トヨトミ』が相次いで映像化され、大きな話題に。著書は他に『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』『パーマネント神喜劇』『ヒトコブラクダ層ぜっと』『あの子とQ』等。170cm、69kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年9月1日号