あんなに毎日一緒にいたのにいまはもうまったく会わない

 刹那的にその日を生きる若い人たちが、地下や地べたではなく、地面から遠く離れた場所に、ふわふわと浮かぶように集まってくるイメージが面白い。「浮き身」は鈴木さんの造語かと思ったが、辞書にも載っている言葉だという。

「いつも仮題をつけておいて、ぎりぎりまでねばって、しっくりくる言葉を考えます。『浮き身』にはいくつか意味があって、娼婦の俗語として使われることもあるようですし、私がイメージしたのはクルトン、スープの『浮き実』ですね」

 夜の街で働いていたころ知り合った友だちとその後、会うことはほぼないそうだ。

「キャバクラに出勤する前に遊んで、アフターの後、合流してカラオケ行って、とか、あんなに毎日一緒にいたのに、って思うんですけど、男の人も含めてそのころの知り合いには本当に会わないです。一時期、うちに転がり込んで一緒に住んでた子もいたけど会ってないですね。あのころは携帯の機種が変わるとアドレスも変わったし、源氏名だけで意外と本名を知らなかったりするので、一回、線が切れると宇宙の中でどこに行っちゃったかわからない状態になってしまうんです」

 最初に書いた原稿では、思うようにならない現在と若かりし日々の輝きをもっと対比させて描いていた。何度か推敲を重ねて、恋人は出て行くし、コロナ禍の閉塞感はあるものの、現在の私がさほど悪い状況にあるようには書かれていない。

「私、すごく加齢に後ろ向きなんです。最初にやった仕事がキャバ嬢とかAV女優とか、若さが一番の資本になるところだったので、その業界の価値基準を自分も内包してしまっていて。あのころAV女優って25歳過ぎると『熟女』枠でしたから。

『40歳になったら終わりだ』とずっと思ってたし、エッセイにも書いてきたんですけど、こないだ40歳になったら意外とあっけなくて。若いころ可愛かったというけど、思い出の中で補正されてて、実際には公共料金を払わずにいろいろ止められてたりしたから結構、小汚くて、考えたらいまのほうが小綺麗なんじゃない?って。編集者と話して何度か書き直すなかで現在についてもそんなに否定しない内容になり、結果的に良かったと思います」

【プロフィール】
鈴木涼美(すずき・すずみ)さん/1983年東京都生まれ。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社で5年半勤務。2022年に発表した小説『ギフテッド』『グレイスレス』が立て続けに芥川賞候補になった。ほかの著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『おじさんメモリアル』『娼婦の本棚』『「AV女優」の社会学 増補新版』や、上野千鶴子さんとの共著『往復書簡 限界から始まる』がある。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2023年9月7日号

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