私が館長だったらプーチンは破門
「例えば私は柔道を好きでやってきたけれど、本当にその子が世界まで行けるかは、また別の話なんですね。たぶん大谷翔平さんだって小学生の頃は自分が凄いと思ってなかったと思うし、私も楽しいから道場に通い、たまたま女子の大会に出て勝っちゃっただけなんです。
それから世界を目指したからわかるんですけど、目指すにはそれなりの準備が必要で、例えば甲子園をただ目指すだけなら、私は目指すとは言えないと思う。全柔連が小学生の全国大会をやめたのも、休まず準備をした子と週2回しか練習しない子が競えるはずもなく、戦うにもレベルがあるから。みんな全国=夢を持たせることだと勘違いしてるけど、本来はその子が今日は負けたけど次は勝とうと思える大会のシステムや競える場を作るのが、大人の務めなんです。
プロを目指す子も、勉強したいから週2でいいという子も、両方いていい。甲子園出場という価値観をみんなが一様に目指す中、うちは目指しませんという高校も、あっていいんです」
とにかく一様であること、押し付けられることを嫌い、講道館の祖・嘉納治五郎の〈精力善用〉〈自他共栄〉の教えを今に伝える山口氏は、スポーツ最大の教育効果は〈自律と自立〉を学ぶことにこそあると言い、疑問や異論を徒に排除する現代の空気や、あのプーチン大統領にすら、舌鋒鋭く迫る。
「もしも私が館長だったら、とっくに破門してます(笑)。自他共栄のまさに逆をゆく彼の黒帯は剥奪、反省し撤退したら返してあげます、とかね。柔道ってジッと待っていてもダメで、何か技を仕掛けると、相手も応えるという、やり取りなんです。当然リスクは伴い、やるかやられるか、皮1枚のところでそれでも食いついてみる。仕掛けなければ始まらないということが、私は性格にまで染みついちゃって(笑)。
アスリートの活躍を見て、勇気をもらえたという人がよくいますけど、その勇気、何に使いました? 感動や勇気を一過性のものとせず、意識を変えて行動変容できれば、社会は少しずつ変わっていけると思うんです」