日本至上主義で、〈決勝戦を生中継しないメディア〉、〈勝利至上主義が、子どもを潰す〉等々、悉く正論だ。
「綺麗事は書きましたけど、全ては負けず嫌いで、息子のことも叱ってばかりいた、私の自己反省なんですね。たぶん私達は今を敏感に捉え、次へと渡せる世代に第一線を譲るべきで、年寄りこそわきまえるべきなんです。私も含めて(笑)。
そう言うと怖がる方もいますが、立場を退くと自分の存在まで失われた感じがするのはアスリートも同じ。虚しいけど、それも人生ですし、私はね、若い人には力があると思ってますから。その力をせめて発揮できる環境が作れればと思うし、実は変化を受け入れた方がラクでもあるんです(笑)」
体罰ありきの世の中など誰も望まないのになぜ変われないのか──。謎を解く鍵は案外、読者1人1人の中にあるのかもしれない。
【プロフィール】
山口香(やまぐち・かおり)/1964年東京都生まれ。1978年に全日本女子体重別選手権大会を13歳で制し、以来同大会を10連覇。1984年には世界女子柔道選手権で日本人初の金、1988年のソウル五輪では銅メダルと、女子柔道界を牽引し、1989年に現役引退。また同年、筑波大学大学院体育学修士課程を修了。英国留学や武蔵大学教授等を経て、2018年より筑波大学体育系教授。その間、JOC理事や全柔連強化委員等も務め、著書は他に『日本柔道の論点』『残念なメダリスト』等。160cm、O型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2023年9月29日号