タイトル戦が続き全国を飛び回っていた全盛期の羽生。1996年に全冠を独占

タイトル戦が続き全国を飛び回っていた全盛期の羽生。1996年に全冠を独占

「家ではカピバラみたいですよ」

 1994年に米長さんから名人位を奪取した羽生さんは、七冠制覇に向けたカウントダウンに入った。当時の羽生さんはタイトル戦での「寝ぐせ」も話題になった。取材と対局のスケジュール管理をすべて自分でこなしており、髪型をチェックする余裕もないほど、多忙を極めていたのだろう。

 名人位獲得からの2年間、僕の撮影は羽生一色だった。1996年2月、谷川さんから王将を奪取した羽生さんはついに七冠を制覇。山口県の対局場には200人以上の報道陣が押しかけていた。まさに「羽生フィーバー」だった。

 報道の洪水のなかにあっても、当時の羽生さんはどこか落ち着いていて、自分を見失うようなことはなかった。前年には女優の畠田理恵さんと婚約し、私生活でも喜びが重なった。

 後年、理恵さんに自宅での羽生さんの様子を聞いたことがある。ハードなスケジュールをこなし続ける羽生さんは、自宅ではどんな様子なのだろうか。

 すると理恵さんは笑いながらこう言った。

「弦巻さん、家ではだいたいボーッとしてます。カピバラみたいですよ」

 この「カピバラ」という情報をどこかで紹介したところ、かなり反響があった模様で、一時期は羽生さんのイメージとカピバラが二重写しになってしまったこともあった。

 米長さんは当時、羽生さんの強さの本質についてこんなことを言っていた。

「羽生は他の棋士と何かが違うから強いんだ、と考えるのは間違っているんです。単純に、羽生は誰よりも将棋が好きだと。そういうことですよ」

 全盛期の羽生さんは、将棋連盟の会長を務めていた米長さんにとって貴重な相談相手でもあった。連盟の運営について、必ずしもすべての意見が一致していたわけではないが、親子ほど年の離れた2人は互いに尊敬し合っていたと思う。

世代を超えた絆で結ばれていた米長と羽生善治

世代を超えた絆で結ばれていた米長邦雄(左)と羽生

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