ライフ

【特別対談】羽生善治・将棋連盟会長が語る「1996年の七冠制覇」と「八冠に挑む藤井聡太」《その3》/「優れた将棋カメラマンは棋士にストレスを与えない」

40年来の付き合いである羽生善治・将棋連盟会長と写真家の弦巻勝氏

40年来の親交がある羽生善治・日本将棋連盟会長と写真家の弦巻勝氏

 10月11日の王座戦第4局。藤井聡太・七冠が永瀬拓矢・王座に勝利すれば、羽生善治・九段(日本将棋連盟会長)が1996年に七冠(最新のタイトル「叡王」は2017年から)を達成して以来の「全冠制覇」が実現する。第4局の対局会場となる京都市の「ウェスティン都ホテル京都」には、かつての「羽生フィーバー」を上回る報道陣が詰めかけるのは間違いないだろう。

「将棋界の歴史」を塗り替える瞬間に世の注目が集まるなか、半世紀にわたってプロ棋士たちの活躍と日常を写真に収めてきたベテラン写真家・弦巻勝氏の著作『将棋カメラマン 大山康晴から藤井聡太まで「名棋士の素顔」』が発刊された。同書に収録された弦巻氏と羽生善治・会長の対談では、羽生会長が「レンズを向けられる棋士の立場」について心情を明かしている。【全3回の第3回】

 * * *

羽生の自宅にて

自宅での撮影に応じる若き日の羽生

いかに棋士にストレスを与えず撮影するかという技術

弦巻 羽生さんには若手時代から、いろいろな場面で撮影をお願いしてきました。将棋専門誌はもちろん、一般誌も将棋界のニュースターに注目していたので、プライベートな場面も撮らせていただきました。独身時代に一人暮らしの部屋にお邪魔するといつも整理整頓されていたので、“頭脳が整理されている人は違うんだなぁ”と感心したものです。

羽生 あの頃はタイトル戦などで家を空けることが多くて、部屋を散らかすような機会が少なかっただけだと思いますよ(笑)。

スーパーで買い物する独身時代の羽生

独身時代、スーパーで買い物する様子

弦巻 小学生時代から今日に至るまで羽生さんの写真は数え切れないほどありますが、なかでも縁台将棋を羽生さんが眺めている写真は自慢の1枚です。

羽生 これは森下卓さん(九段)との対局で、高知での棋王戦(1995年2月)ですね。

羽生と森下卓が高知城の縁台将棋を見守る(1995年)

羽生と森下卓が高知城の縁台将棋を見守る(1995年)

弦巻 ちょうど七冠制覇をかけて羽生さんが谷川浩司さんと王将戦を戦っている時期でもありました(この年の王将戦では谷川王将に敗れる)。それにしてもさすがの記憶力ですね。

羽生 もちろん全部は覚えていないのですが、写真を見ると当時の記憶がすぐに蘇ってきます。それが写真の力ですよね。

弦巻 羽生さんはトップ棋士として40 年近く被写体であり続けていますが、対局場にいる僕らカメラマンをどう見ていましたか。

羽生 弦巻さんや、中野英伴さん(長く将棋専門誌『将棋世界』グラビアを担当)といった将棋界で長く活躍してこられた写真家の方々に共通しているのは、いかに棋士にストレスを与えず撮影するか、その技術の高さだと思うんです。もちろん「良い写真を撮る」ことも難しい技術なのでしょうが、緊張感に満ちた対局室で、まったく邪魔にならない空気のような存在になることは、それ以上に難しいのだろうと思います。

対局中の羽生

対局中の羽生

弦巻 僕が大切に考えてきたことを、羽生さんが言い表してくれて本当に感謝です。僕は棋士の撮影時、ストロボを使わないことをポリシーとしていました。将棋を撮り始めた頃(1970年代中盤)はフラッシュを光らせていたのですが、あるとき大山康晴先生(十五世名人)が眩しい光を嫌がっていることに気づいたんです。だから僕は棋士に強い光を当ててはいけないと思い、どんなに暗い場所でもストロボを封印しました。それから大山先生は、僕がレンズを向けても目線を上げてくれるようになりました。僕にとっては大きな学びでしたね。

話は尽きない

数十年前の写真に「懐かしいですね」と笑顔を見せる

関連記事

トピックス

手指のこわばりなど体調不安を抱えられている(5月、奈良県奈良市
美智子さま「皇位継承問題に口出し」報道の波紋 女性皇族を巡る議論に水を差す結果に雅子さまは静かにお怒りか
女性セブン
ちあきなおみ、デビュー55周年で全シングル&アルバム楽曲がサブスク解禁 元マネジャー「ファンの声が彼女の心を動かした」
ちあきなおみ、デビュー55周年で全シングル&アルバム楽曲がサブスク解禁 元マネジャー「ファンの声が彼女の心を動かした」
女性セブン
菅原一秀(首相官邸公式サイトより)と岡安弥生(セント・フォース公式サイトより)
《室井佑月はタワマンから家賃5万円ボロビルに》「政治家の妻になると仕事が激減する」で菅原一秀前議員と結婚した岡安弥生アナはどうなる?
NEWSポストセブン
「マッコリお兄さん」というあだ名だった瀬川容疑者
《川口・タクシー運転手銃撃》68歳容疑者のあだ名は「マッコリお兄さん」韓国パブで“豪遊”も恐れられていた「凶暴な性格」
NEWSポストセブン
民主党政権交代直後の政権で官房長官を務めた平野博文氏
【「年間約12億円」官房機密費の謎】平野博文・元官房長官 民主党政権でも使途が公開できなかった理由「自分なりに使い道の検証ができなかった」
週刊ポスト
『EXPO 2025 大阪・関西万博』のプロデューサーも務める小橋賢児さん
《人気絶頂で姿を消した俳優・小橋賢児の現在》「すべてが嘘のように感じて」“新聞配達”“彼女からの三行半”引きこもり生活でわかったこと
NEWSポストセブン
NEWS7から姿を消した川崎アナ
《局内結婚報道も》NHK“エース候補”女子アナが「ニュース7」から姿を消した真相「社内トラブルで心が折れた」夫婦揃って“番組降板”の理由
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【厳戒態勢】「組長がついた餅を我先に口に」「樽酒は愛知の有名蔵元」六代目山口組機関紙でわかった「ハイブランド餅つき」の全容
NEWSポストセブン
今シーズンから4人体制に
《ロコ・ソラーレの功労者メンバーが電撃脱退》五輪メダル獲得に貢献のカーリング娘がチームを去った背景
NEWSポストセブン
真美子夫人とデコピンが観戦するためか
大谷翔平、巨額契約に盛り込まれた「ドジャースタジアムのスイートルーム1室確保」の条件、真美子夫人とデコピンが観戦するためか
女性セブン
「滝沢歌舞伎」でも9人での海外公演は叶わなかった
Snow Man、弾丸日程で“バルセロナ極秘集結”舞台裏 9人の強い直談判に応えてスケジュール調整、「新しい自分たちを見せたい」という決意
女性セブン
亡くなったシャニさん(本人のSNSより)
《黒ずんだネックレスが…》ハマスに連れ去られた22歳女性、両親のもとに戻ってきた「遺品」が発する“無言のメッセージ”
NEWSポストセブン