芸能

売りのなかった俳優・山田雅人が発明したハートのこもった“かたり芸”

「かたり」という独自の芸を築いた山田雅人(イラスト/佐野文二郎)

「かたり」という独自の芸を築いた山田雅人(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、「かたり」という独自の芸を築いた山田雅人について綴る。

 * * *
 若き日は関西の方で女の子達から「キャーキャー」言われた芸人タレント。中年期は『渡る世間は鬼ばかり』などに出演するそこそこの俳優。いまひとつ「これ」という売りがない。人柄だけは一流なのだが惜しい感じの芸能生活。そんな2009年、テレビで大好きなオグリキャップなど名馬の話、架空実況をやっていた。「これだ」とうなった天才的ひらめきを持つ私。

「競馬のこと俺分からないし、もっと他のジャンルもどんどん語って行ったら? 興味を持った人を自分で取材に行って、そのなめらかな喋りと感動をチラリ散りばめて語るんだよ。“かたり”って芸はないから発明だ。落語でも講談でも漫談でもない山田雅人の“かたり芸”だよ」

 この日リクエストしたのは私が子供時分いたく感銘を受けた“鉄腕稲尾和久”の涙々のお話だ。この“神様・仏様・稲尾様”を長嶋茂雄との対決など織り込んで手に汗握る一席に仕立てあげた。感動がジワジワと広がって行き、周りからも次々とリクエストが来て作りあげて行った。「阪神物語」「津田恒実物語」。

 しまいにはミスター長嶋茂雄物語を作りたいと言うので、私が「あの人、かりん糖が好きだからいきなり行ってもかりん糖でハマるんじゃない?」私のナイスアドバイスが効いて、ピンポーン「う~ん、いわゆるかりん糖。さぁ入って入って」と話を聞き込んだ。自分の耳と目で取材してるので間違いもなく話にハートがこもるのだ。

 スポーツだけでなく造詣の深い芸能も深く学び「藤山寛美物語」「永六輔物語」「太田光物語」。引退が近いとききライブをやっているクルーズ船にも乗り込み直談判で加山雄三に飛び込み話をきき出し「加山雄三物語」まで創作した。

 今まで作った「かたり」は130本近くになる。「高田文夫プロデュース 芸能生活40周年記念・山田雅人かたりの世界」が2024年1月9日(火)夜6時半、新宿紀伊國屋サザンシアターで開催される。ゲストは松村邦洋と私(大阪は11月ゲスト鶴瓶。完売)。年明け早々、唯一無二の「かたり」をきいていい年にして下さい。

 私の先週はたて続けに看板に会って話をきいた。世界の渡辺謙は阪神優勝が嬉しくて仕方のない様子。大震災の時、気仙沼に自ら立ち上げたカフェ「K-port」の10周年を記念してライブをやると張り切っていた。

 私に会うと「センパーイ」と言う日芸の後輩(真田広之と同期)、船越英一郎。「今度人生で初めて舞台にあがり、主演です。明治座で“赤ひげ”です。崖がなくても大丈夫ですかネ?」だと。

※週刊ポスト2023年10月27日・11月3日号

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