サザエさんらとともに実施された東京・渋谷での痴漢撲滅キャンペーン。同庁の防犯アプリ「デジポリス」の利用を呼びかけた(時事通信フォト)
三島さんのようにダウンまでは至らなかったものの、度重なる痴漢被害の結果、様々なクセがついてしまったと話すのは、関西在住の会社員・金本のぞみさん(仮名・20代)だ。
「駅でもデパートでも、エレベーターに乗る前は後ろに男性がいれば先に行ってもらい、後ろには誰もいないか女性だけの状態にするようにしています。夏場は薄着ですから、電車内で吊革につかまると脇の下をじっと見られたり撮影されることもあります。だからつり革や手すりにつかまれず、揺れる車内で体を支えられなくなる。やむを得ず満員電車に乗らなければならないときは、有料のグリーン席にするか、始発駅まで電車で戻って一度改札を出た後、再度入場して空いた電車に着席するようにしています」(金本さん)
金本さんも、高校時代から長らく被害に遭い続けたという一人。痴漢に対する恐怖感をずっと抱いてきて、一時期は空いている電車内であっても、近くに男性がいれば心拍数が上がり、冷や汗が出たほどだった。しかし、このままでは痴漢の思うツボだと感じ、何とか電車やバスにも一人で乗車できるようになった。そのために行ったのが、絶対に痴漢に遭わないための自分なりの「検証と対策」だった。
「自分がいつ、どのような状況で痴漢に遭っているのかを検証したんです。これは、自分一人であれば、直視できず辛くてできなかった。救ってくれたのは、被害に遭ったことがある同僚で、検証と対策を一緒に考えてくれました。同僚も”自分の身は自分で守るしかない”と言っていましたが、私も同感です。誰も助けてはくれないんです。その結果、エレベーターでは男性の前に乗らない、吊革につかまらないよう徹底したんですが、痴漢被害に会うことはほぼなくなったものの、なぜ痴漢のために私が遠回りをしたり不便な思いをしなければならないのか、とても理不尽です」(金本さん)
ヒットアンドアウェイの痴漢が多いターミナル駅
もはや誰も助けてはくれないから、女性は自身で「痴漢に遭わないための工夫」を強いられている。この「工夫」は我々男性が思う以上に、過酷で深刻ものなのだ。都内在住の公務員・新谷真紀さん(30代)の「日常」は、痴漢によって大きく変わってしまった。
「混んでいる快速や特急には絶対に乗らない。駅と駅の間隔が長く、一度痴漢に目をつけられたら、ずっと逃げられなくなるからです。あと、車内の壁やドア付近にいると、痴漢に追い込まれて逃げられなくなります。混雑している車両内では、移動するフリをして痴漢していく人がいますが、これは我慢するしかないんです。以前、痴漢だと声を上げたことがありましたが、周囲の人は誰も気に留めてくれず、痴漢は”えん罪だ”と捨て台詞を吐いて逃げた。相手が激高して暴力を振るわれる可能性も考えると、とにかく自分の身を守るしかできない」(新谷さん)