2000年代半ばから首都圏では女性専用車両が導入されている(EPA=時事)

2000年代半ばから首都圏では女性専用車両が導入されている(EPA=時事)

 新谷さんも、学生時代から何度も痴漢被害を受けてきた。電車に乗れなくなったり、職場に行けなくなることはなかったが、それは新谷さんの涙ぐましい努力の結果だ。

「痴漢対策の本やウェブサイトをたくさん見て、自分でも検証しました。今でも守っているのは、電車に乗る際は、ターミナル駅での乗り換えをしないということです。乗換駅なだけあり、証拠が残りにくく、逃げやすいためか、ヒットアンドアウェイの痴漢が多いんです。これは私自身も長年そう実感していたことです。また、公共交通機関はできる限り二人以上で乗るようにもしていますが、こうやって自分で振り返ると、安全に電車やバスに乗ることができるタイミングなんて、ほとんど無いんです。普通の生活はできなくなりましたが、痴漢に遭う不安がない安心は得られたと思っています」(新谷さん)

 痴漢という一方的な性犯罪は、被害者の人格を否定する卑劣なものだ。犯行の瞬間だけでなく、いつまでも恐怖と恥辱が続く。それから何年も電車などの公共交通機関だけでなく、人が多く集まる繁華街やコンサート、学校の全校集会にすら参加できなくなることもある。こうした苦しみを考えれば、少しでも防止しようという社会の努力が必要だろう。通勤通学電車の過度な混雑の解消や、女性専用車両、トイレに女性専用個室を設定することには治安を守るために意味がある。

 今のところ最大の障害は、いくら訴えても「考えすぎだ」とか「それくらいで」と苦しい気持ちを無かったことにし、ときには「ウソつき」とまで言う、痴漢という性犯罪が頻繁に起きている現実を無いことにしたい風潮だろう。確かに、痴漢冤罪事件が皆無とは言わないが、被害の全体像からみたら少数で、全体の被害を小さくすることが優先されるべきだ。わずかな例外的事例を強調して、被害全体を矮小化するのは、木を見て森を見ずに社会を壊すも同然だろう。まず第一歩として、被害を見て見ぬふりする傍観者だらけという今の社会の「当たり前」を、変えることが必要かもしれない。

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