「毎日体に機械をつないで何リットルもの水を交換しなければならない腹膜透析のように、延命治療の中には大きな手間のかかるものもあります。加えて、透析はやめると2週間ほどで亡くなってしまうことが多く、一度始めたらやめるのは難しい。
とある高齢の女性の患者は“透析をしなければ死んでしまう”と言われて承諾しましたが、透析の手間が次第に重くなって自宅に帰ることができなくなり、療養病棟を転々としていた。“こんなに大変なら、家族と過ごせるうちに死んでおけばよかった”と、後悔されていました。
一方、口から食事をとることができなくなった場合、鼻からチューブを挿入する経鼻胃管栄養法という延命治療を行うことがあります。ですがこれは、長生きを可能にする一方で苦痛を伴う場合がある。苦しさのあまり無意識にチューブを抜いてしまう患者には、手にミトンをはめる『抑制』という措置がとられることがあります」
そのため、安らかな最期のために拒否する人も少なくないと後閑さんは話す。
「しかし、とある100才の女性は、若くして妻を亡くした息子たちとの“お母さんは長生きしてね”という約束を守るため、抑制をされてもこの治療を受け、最後はきっと満足され、亡くなられました。苦しくとも、後悔はなかったのではないかと思います」(後閑さん)
最期が近づけば、自分や大切な人にとって後悔がないのはどちらか、こうした判断を迫られることになるかもしれないのだ。自身も子宮頸がんのサバイバーである緩和ケア医の田所園子さんは、後悔のない選択のためには「患者力」が大切だと語る。
「医師である私でさえ、がん宣告を受けたときはひどく取り乱しました。しかしその後は自分の病気と治療について必死で調べ、担当の医師を質問攻めにして、絶対に後悔がないよう、治療の方針を選択していった。
正直なところ、病気になってしまったらどんな結果になるかはわかりません。それでも後悔しないために大切なのは、自分で調べて、わからないことや気になることを医師に尋ね、自分の意思で決めることです」(田所さん・以下同)
病状や治療法のほか、最期をどこで迎えたいか、延命治療をするかしないか……可能なら、その理由まで、親しい人に伝えておいてほしい。
「できれば元気なうちに、たとえ話として話し合っておいてください。体の苦痛も心の動揺もなく、死に現実味がないときに話した方が、本心から冷静に話し合えます」
※女性セブン2023年11月23日号