「日本語の自分」について思いを語ってくれたタオさん
そんなことをタオさんに話したら、
「やっぱり、私もたくさん喋れば普通に自然に話せるんですけど、使わないと言葉は出てこないですね。今もまだ、言いたいことが言えてないと感じるときがあります。簡単な文法しか使ってないと思うし、敬語もまだまだだと思います」
と謙虚な答えを返してくれた。そう、日本語で話すタオさんはとても謙虚で思慮深い。タオさん自身は「日本語の自分」をどう感じているのだろうか。
「日本語で話しているときの自分は、考えながら話しているから落ち着いているかなと思います。私、ベトナム語では結構早口なんですよ。たまに、喋ってるんだけど頭の中では別のことを考えていることもあって、特に友達と喋っているとき、聞き返されても『あれ、今何言ったんだっけ?』ってなることがあります(笑)。
考えずにすらすら話せる母国語の自分と、考えて話している日本語の自分は、性格というか雰囲気が違う。今、ほとんど日本語で生活している中で、時々ベトナム語を話すと、ちょっと冷静に喋っているなと気付きます。ベトナム語の自分も、考えながら、話に集中して喋ってる。日本語での話し方が移っているんですね」
外国語の自分が、母国語の自分に影響を与えている。そう感じること自体がとても豊かな経験だ。羨ましいし、かけがえのないことだと思う。
「今勉強していることを、将来役立てたい。起業のために活かしたい。そういう気持ちがどんどん強くなっていると感じます。日本国内の学会で、日本語で発表するために発音も改善しなければと思っています。時間がかかっても、本ももっと読みたいですね。研究も大事ですけど、私にとって、日本語もとても大事です」
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
ゴー・ティ・トゥー・タオ/1992年、ベトナム生まれ。2017年6月、美幌農業協同組合の技能実習一期生として来日。現在は北見工業大学大学院博士課程に在籍し、研究テーマは「農薬の無害化」。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。