ライフ

「日本にいるけれど日本語を使う機会がない」 元技能実習生・タオさんが実感する納得の理由【連載「日本語に分け入ったとき」】

在籍している博士課程では、排水の処理技術の開発、水中の汚染物質の除去に関する実験を毎日行っているという

日本最北の国立大学、北見工業大の博士課程で研究に励むゴー・ティ・トゥー・タオさん(写真右)

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回は、ベトナムからの技能実習生として来日し、現在は大学院で学びながら、母国の農業に寄与したいと志すゴー・ティ・トゥー・タオさんにうかがった。【全4回の第4回】

 * * *

 ベトナムの実家でお父さんが作っているコーヒー。実習生として来日したばかりのとき、それを飲んで心を癒し頑張っていたタオさんは、ベトナム産のコーヒーの魅力を世界に広げたいと考えている。コーヒー豆の産地というと南米や中米の名前が浮かぶが、実はベトナムはコーヒー産出量が世界第2位の国。それをもっと知ってもらいたい、そしてコーヒーを栽培する土壌の質の改善や排水処理技術などを通じて、母国の農業に貢献したい。そんな想いを抱いて、タオさんは北見工大の大学院で日々研究に勤しんでいる。

「今、ビジネス日本語の試験も受けてみようかなって思っているんです。去年(2022年)日本語能力試験のN1(一番高いレベル)に合格してから、日本語の勉強をあまりしていなくて。それまでは試験を目標に毎日勉強していたんですけど、N1が取れてほっとして、少し休んでしまっています。
 
 なんか最近は、自分の日本語力、落ちてる気がして……ビジネスの本も読んでいるので、それも生かしたいし、もうちょっと勉強しないといけないですね」

 日本語力が落ちている、なぜそう感じているのだろう? 

「大学院にはタイやモンゴル、マレーシアからの留学生もいるので、食堂で一緒にお昼ご飯を食べたりします。そのときは日本語で話しますが、私もみんなも、それ以外の時間はずっと実験をしてて、化学の実験なので集中しないと危ないから、あまり喋らない。コミュニケーションの時間はそんなに長くないんですね。多分、実習生のときより、日本語を使うチャンスは減っている気がします。先生に相談するときくらいかな……」

「日本語を使う機会があまりない」というのは、おそらく多くの外国出身者が感じていることだと思う。話さなくても困らないように、社会が変化していることも大きい(だからこそ、コンビニや居酒屋などで働く外国出身者のすごさも分かるのだが)。道が分からなくて人に聞く、なんてこともスマホがあるからあまりないし、外食のチェーン店では注文もタブレットでできてしまう。買い物もセルフレジがある。日本語教師としては、学んだことをどんどん生かして欲しいと思うけれど、「どうしても日本語を使わなければならない」場面は、病気のときなどを除いて日常生活ではとても少ない。

関連記事

トピックス

司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
横山剣氏(左)と作曲家・村井邦彦氏のスペシャル対談
《スペシャル対談・横山剣×村井邦彦》「荒井由実との出会い」「名盤『ひこうき雲』で起きた奇跡的な偶然」…現代日本音楽史のVIPが明かす至極のエピソード
週刊ポスト
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
ハワイ島の高級住宅開発を巡る訴訟で提訴された大谷翔平(時事通信フォト)
《テレビをつけたら大谷翔平》年間150億円…高騰し続ける大谷のCMスポンサー料、国内外で狙われる「真美子さんCM出演」の現実度
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン