認知症が進行して徘徊などの心配がある場合や、火の始末などに不安がある場合は、自宅での生活に区切りをつけて施設に入居することをお勧めします。一口に老人ホームといっても、規模や内容、グレードは様々あります。体験入居などで試すこともできるので、納得できる施設に出会うチャンスはあるでしょう。
いまだに親を施設に入れることに抵抗感を抱く人がいますが、介護保険制度が始まって20年以上が過ぎた今、介護現場に蓄積されたノウハウやスキルは相当レベルが上がっていますから、ぜひ積極的に検討すべきです。
そうした制度や仕組みは積極的に利用すべきもので、その恩恵は費用の負担感を大きく上回ると実感できるケースが多いはずです。
妻が自身の親の介護をしていたら
妻が自身の親の介護をしているケースでは、夫が手を貸してあげるのは大事なことです。それは、夫が妻に恩を売ることができる、数少ない、貴重な機会でもあります(笑)。
とはいえ、それまでロクに家事をしたこともない夫が手伝えることはそう多くなく、病院への送り迎えくらいかもしれません。あるいは、たまに力仕事が必要な時に手伝う程度かもしれません。そうだとしても、58歳を過ぎて妻に感謝される機会というのはあまりありませんから、「チャンス」と思って自ら買って出るくらいがいいでしょう。
ただし、手は貸すだけならいいが、妻のやり方に口を挟むのは御法度です。妻が自分の考えでやっている介護に口を出すのは百害あって一利なしです。
傍目から見て妻が明らかに疲弊していたり、「このままじゃ潰れちゃう」と心配になるような場合には、「もういい加減やめようよ。施設に入れないと君が病気になっちゃうぞ」とブレーキをかけることも必要です。介護サービスの利用も含め、施設などの情報収集などでサポートしてはどうでしょうか。
もし、それまでの夫婦関係が良好であれば、親の介護がきっかけで悪化するのはあまりに不幸です。できる範囲で積極的にプロの力を借り、その出費は惜しまないほうが、結果的に夫婦が安定して穏やかに過ごせることになるでしょう。(了)
ベストセラー作家の和田秀樹医師が現役世代の悩みを吹き飛ばす「生き方」のコツを指南(撮影/三浦憲治)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。