赤沢美林(長野県木曽郡上松町)を走る森林鉄道のトロッコと道川(時事通信フォト)
編集部員からは多くの意見が出たが、なかでも工藤さんが重視したのが廃線だった。そして、工藤さんが『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』の実質的な編集長と形容するほど鉄道知識に優れた編集チーフの星野俊也さんも、廃線の情報を多く載せたいという考えで意見が一致していた。
2010年に発行した分冊版にも廃線情報は掲載していたが、1984年以降に廃止された路線のみだった。今度は廃線についてさらに掘り下げた情報を図示した『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』第1版の制作が始まり、2020年11月に第1版が発売された。
コロナ禍でおうち時間が増える中、『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』は”読む地図”といった具合に、移動するときに参照する実用的な地図とは異なる使われ方をされた。そのため、移動が制限され、旅行需要が減少している中でも異例のヒットとなる。
「『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』では、廃線の情報を盛り込みたいと考えていましたが、締め切りとの関係もあって調査・確認できたのは1945年以降の廃線まででした。編集部には星野をはじめ鉄道好きが多く、やはり全廃線の情報を載せたいという気持ちが強かったようです」(工藤課長)
そして第1版の発売から約3年後、『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』の第2版が発売された。先述したように、地図に記載されている情報は少しぐらい古びても買い替える人は多くない。それにも関わらず、わずか3年で新たな地図を刊行することは、思い切った決断だった。
「第2版は、第1版をパワーアップさせたものにしなければなりませんでした。そのため、第1版では盛り込めなかった廃線について、さらに調査を進めました。編集スタッフの奮闘もあり、第2版は明治時代まで遡って廃線を図示しています」(同)
森林鉄道や未成線の地図記載から読み取れること
『レールウェイマップル 全国鉄道地図帳』第2版でパワーアップした部分は、廃線だけではない。日本全国に敷設されていた森林鉄道を徹底的に調べあげ、約8000キロメートルにおよぶ森林鉄道を地図に落とし込んでいる。
「かつては、日本各地に森林鉄道が走っていました。しかし、現在は鹿児島県屋久島の安房森林軌道が国内で唯一の現役で走っている森林鉄道です。そのほかにも北海道遠軽町の丸瀬布森林公園いこいの森という町営公園で動態・静態保存されている森林鉄道や長野県上松町の赤沢森林鉄道も、現在は観光用として走っていていますが、これらの森林鉄道は本来の役目を終え、現在は公園などで観光用に走っているだけです」(同)