ライフ

京都国立博物館「京博」に通い続けたマンガ家が教える“ツウな愉しみ方”

西洋のお城を思わす明治時代のレンガの建物が目立つ京都博物館

西洋のお城を思わす明治時代のレンガの建物が目立つ京都国立博物館

 紅葉のシーズンが終わっても相変わらず大人気の観光スポット、京都。そんな京都の大人の愉しみ方の一つ、京都国立博物館(略して「京博」)の穴場を、毎月京博に通い続け公式サイトにマンガエッセイを連載し、新刊『京博 深掘りさんぽ』が話題のマンガ家・グレゴリ青山氏に聞いてみた。

 * * *
 あなたは京都国立博物館(略して京博)に行かれたことがあるだろうか?

 広い敷地に西洋のお城を思わす明治時代のレンガの建物、直線的な平成時代の建物、日本美術を中心に展示する博物館なのに、なぜかロダンの「考える人」の像があるお庭……わたし、漫画家のグレゴリ青山は、この美しくどこかミステリアスな博物館に取材し、2年間、京博のウェブサイトで漫画の連載をしてきました。京博の中には、何があって、何が行われているのか? もし、今、誰かに「京博ってどんなところ?」と聞かれたら、わたしはこう答えるだろう。

「京博、気ぃ遠くなるところ」と。

桃山時代に作られた石垣

ロダンの「考える人」の像も庭でインパクトを放つ

ロダンの「考える人」の像も庭でインパクトを放つ

 そう、京博の敷地の波乱の歴史に、書庫の本の膨大さに、お客様と展示作品を守るため働くスタッフの気の抜けない仕事に、展覧会を開くための準備の大変さに、文化財を修復する方たちの途方もない集中力に、そして、公式キャラクター、トラりんの問答無用で人を笑顔にしてしまう可愛さに……もう、取材中、京博の中でわたしは何度フッと気が遠くなったことだろう。

 そんな気が遠くなるほどの魅力が詰まった京博。もしあなたが京博に行かれるのなら、展示室を見るだけではもったいない、今から京博の歴史と不思議を体験できるツアーにご案内しましょう。

 さて、現在の京博の入口は、平成時代に作られた南門なのですが、ここはまず、南門には行かず、西側の表門(西門)へ行ってみましょう。ここからは入館できないのだけど、この表門が、実に美しいのです。レンガでできた、イスラム寺院を思わすような立派な門、その向こうに見える明治古都館、設計したのは日本建築界の草分けの一人、片山東熊。東山を背景としたこの見事な構成美、見惚れずにはいられません。

 そのレンガ色の門をずっと左に見ていくと、石垣が現れます。ただの石ではありません。お隣の豊国神社に続くこの石垣の石一つの大きさが、人間の身長ほどの巨大さ。この石垣ができたのは明治ではなくて、なんと桃山時代。豊臣秀吉がつくった方広寺の石垣の一部で、実は、京博の敷地は方広寺の敷地の一部だったのです。そしてその方広寺には、なんと、奈良の大仏より大きな大仏があったそう。

石一つが人間の身長ほどの巨大さを持つ石垣は桃山時代に豊臣秀吉がつくった方広寺の石垣の一部

石一つが人間の身長ほどの巨大さを持つ石垣は桃山時代に豊臣秀吉がつくった方広寺の石垣の一部

 しかしこの大仏、完成した翌年には地震で崩壊、新たに作ろうとしたその最中に炎上、さらに再建した際、ともに造られた梵鐘に書かれた文字に家康が「わしを呪う文字がある」といちゃもんをつけ、これが引き金となり、大坂夏の陣で豊臣家が滅亡してしまうのだ。もはや呪われているとしか思えません。

 その方広寺は今も小さいながらも残ってなんと、その梵鐘も残っているのだ。歴史の事件の証拠品がこのように残っているところが京都のすごいところ。

 大仏殿があったところは今は公園として整備され、大仏の台座だった位置がわかるようになっていて、今はもうない大仏の姿に思いをはせることができます。そのすぐお隣の豊国神社にも行ってみましょう。ここは豊臣秀吉を祀る神社。今の社殿は明治13年(1880年)に建立されたものだけど、唐門だけは伏見城の遺構で左甚五郎の彫刻がある豪華な門で、国宝に指定されています。

 そして注目していただきたいのは、境内にある。特にこれといって特徴のないお稲荷さんのお社なのですが、これから京博に行く私たちは、この場所をしかと覚えて、手を合わせていくことをお勧めします。そのわけは京博へ行ってから。

明治古都館の堂々たる外観

 そうそう、大仏があった名残として、近くの和菓子店、甘春堂東店には大仏餅なるものが売られています。江戸時代と同じ製法で作られているそうで、こんなおいしい歴史の証拠品があるというところに、やはり、フッと気が遠くなってしまいます。

 では、甘党の方は大仏餅をお土産に買って、そろそろ京博に戻りましょう。

 いよいよ南門から京博の中へ入って行くと、まっすぐな道が平成知新館の建物へと続いています。平成知新館へ行く前に、くるっと首を逆に向けてみましょう。このまっすぐな道の先には三十三間堂の南大門。これは秀吉の息子、秀頼がつくったもので、当時方広寺の敷地は大仏殿だけでなく、その南大門まであったとか。

 そして首をまた元に戻して平成知新館の入口へ。かつてここは秀頼がつくった大仏殿の南之門があったところ。入り口横の水盤の中を見ると、金属製の円環があり、そこが南之門の柱があった場所の印だそう。入り口を入ったすぐのところにも円環があるので、そこに立ってみて、現代からつながる桃山時代に思いをはせてみるのもいいでしょう。

 平成知新館へ入る前に、京博の顔というべき明治古都館を見ておきましょう。

 残念ながら今は改修中で、館内は一般公開されていませんが、明治30年(1897年)に片山東熊の設計で建てられた、レンガ造りの堂々たるその外観は、現代に生きる私たちをも圧倒します。この建物、改修中に床下の発掘調査をしてみたところ、あるものが埋まっていたそう。それは、方広寺大仏殿の大きな屋根瓦。展示室の下は、江戸時代に大仏殿が全焼した後の焼け瓦の捨て場になっていたのです。京博の来館者は、江戸時代に焼けた桃山時代の瓦の上に建った明治時代の建物の上で展示を見ていたわけですね。文字通り、歴史が積み重なった京都という土地に、フッと気が遠くなります。

関連記事

トピックス

連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
《ルフィ事件》「腕を切り落とせ」恐怖の制裁証言も…「藤田は今村のビジネスを全部奪おうとしていた」「小島は組織のナンバー2だった」指示役らの裁判での“攻防戦”
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月12日、撮影/横田紋子)
《麗しのロイヤルブルー》雅子さま、ファッションで示した現地への“敬意” 専門家が絶賛「ロイヤルファミリーとしての矜持を感じた」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
三原じゅん子氏に浮上した暴力団関係者との交遊疑惑(写真/共同通信社)
《党内からも退陣要求噴出》窮地の石破首相が恐れる閣僚スキャンダル 三原じゅん子・こども政策担当相に暴力団関係者との“交遊疑惑”発覚
週刊ポスト
ツアーに本格復帰しているものの…(左から小林夢果、川崎春花、阿部未悠/時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫》川崎春花、小林夢果、阿部未悠のプロ3人にゴルフの成績で “明暗” 「禊を済ませた川崎が苦戦しているのに…」の声も
週刊ポスト
兄・輝星と仕草も容貌も瓜二つの吉田大輝
金足農業・吉田大輝「甲子園で優勝して、兄・輝星を超えたい」決意 顔も仕草も瓜二つだが、「まるで違う」と父が明かす2人の性格
週刊ポスト
山本アナは2016年にTBSに入局。現在は『報道特集』のメインキャスターを務める(TBSホームページより)
【「報道特集」での発言を直撃取材】TBS山本恵里伽アナが見せた“異変” 記者の間では「神対応の人」と話題
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「城島さん、松岡さんと協力関係は続けていきたいと思います」福島県庁「TOKIO課」担当者が明かした“現状”と届いたエール
NEWSポストセブン
映画『国宝』で梨園の妻を演じた寺島しのぶ(52)
《無言の再投稿》寺島しのぶ、SNSで2回シェアした「画像」に込められた歌舞伎役者である息子・尾上眞秀への“覚悟”
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビー服は男の子のものでは?》眞子さん、夫・小室圭さんと貫く“極秘育児”  母・佳代さんの「ラブコール」も届かず…帰国が実現しない可能性も
NEWSポストセブン
吉沢亮演じる喜久雄と横浜流星演じる俊介が剣幕な表情で向かい合うシーンも…(インスタグラムより)
“憑依型俳優”吉沢亮主演の映画『国宝』が大ヒット、噂される新たな「オファー」とは《乗り越えた泥酔事件》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“半日で1000人以上と関係を持った”美女インフルエンサー(26)がイギリスの公共放送で番組出演「口をすぼめて、吸う」過激ビジュアル
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 三原じゅん子「暴力団ゴルフコンペ」写真ほか
「週刊ポスト」本日発売! 三原じゅん子「暴力団ゴルフコンペ」写真ほか
NEWSポストセブン