2002年、成人式会場前でワゴン車で車止めに突っ込むなどした新成人や少年を道交法違反の現行犯で逮捕、連行する沖縄県警の警察官(時事通信フォト)
「暴力団がらみの事件が相次ぐなど、北九(州)にアウトローなイメージがあったことも影響しているのかもしれませんが、今の若い子達は、昔とは全く違う。七色をした髪に金ピカの袴を着ていても、話をすれば“親に感謝したい”とか“社会の役に立ちたい”と言うんです。特に今年は元日に石川県で大地震があり、今なお行方不明の方が何百人もいる。悲しい思いをしている人がいるのに、ふざけてばかりはいられないと、リーゼント頭で派手な見た目の男の子が、サングラス越しに真面目な表情で語る。時代は変わりました」(松尾さん)
特に今年二十歳になる若者達は、青春真っ只中の高校時代を、コロナ禍の抑圧された環境で過ごさざるを得なかった。体育祭や文化祭などの行事は相次いで中止になり、修学旅行は取りやめ、学校の授業はリモートに移行し、仲の良い友人と談笑することもできなかった。神奈川県横浜市で行われた成人の集いに参加した大学生・森村茉樹さん(仮名・19歳)がしみじみと語る。
「やっと同世代の友達と、マスクなしで、綺麗な格好で会えて涙が出てきました。高校時代は修学旅行にもいけず、卒業式ですら”短縮”され、みんなで写真を撮ったり、別れを惜しむ瞬間すらありませんでした。日本人の多くが経験してきた、当たり前の日常、普通のことがどれだけありがたいか、私たちにしかわからないかもしれません」(森村さん)
とはいえ、会場の外では派手な袴姿の男性達が酒を飲み暴れていたというが、本当に真面目な新成人ばかりだったのか。
「警察も来ていたみたいですが、みんな“あれがテレビで見る荒れる成人か”とニヤニヤ眺めていたくらい(笑)。暴れていた人たちも、会場内に入れば大人しく来賓のスピーチを聞いて拍手をしていました。ヤンキーだろうと不良だろうと、純粋にこの集いを楽しみたかったんだと思います」(森村さん)
数少ないものを多数に見せてもすぐ気づかれる
一昔前の「荒れる成人」のイメージを持つ大人達にとってみれば、まるで肩透かしにあったような状況ではある。だが、こうした古いイメージから脱却できず、冒頭で紹介したように「荒れた映像を撮ってこい」と指示を出すテレビディレクターのような大人は、相当数存在すると思われる。前出のAD・中山さんがいう。
「あるテレビ局のニュースで荒れた若者の様子を流していましたが、その現場にいた別のADに聞けば、少なくとも数千人いた参加者のうちのごく数人、多くて十数人程度が起こしたトラブルで、そこだけ切り取って報じるのはあまりにも卑怯。数少ないものを声高に取り上げて多数に見せるやり方だと、ニュースを見た参加者は一発でわかるはず。テレビも大人も、時代に全くついていけてないし、そんな方法がいまだに通用すると思っているのかと愕然としました」(中山さん)
荒れる新成人を見て「日本のお先は真っ暗だ」と大人が嘆いたのも今は昔。逆に、新成人達が我々大人の体たらくを見て「大人は大丈夫か」と心配される時代になったのかもしれない。