そして被告は調書に「Cさんの面前で家族を殺し心身に大きな傷を与えるつもりだった」ことなどを詳細に語ったのだった。そのうえで反省の言葉も変遷した。
「鑑定留置前には謝罪の思いを話したが、正直そこまでの気持ちは持ってない。罪を軽くするために大袈裟に話したものです。被害者には申し訳ない思い多少ある。ただそれだけで、僕が何をしてあげることもできません」(同)
裁判ではこうした調書が読み上げられたのち、精神鑑定を行なった専門家2名の尋問も行なわれたが、犯行後に出頭した経緯についてもまた同じように“罪を軽くするため”の行動があったと明かされた。
被告は出頭時に、6通の手紙を持っていた。犯行後、潜伏場所としてあらかじめ準備していた空き家で書いたものだ。そこには謝罪の気持ちなどが綴られていたが、実際のところ出頭した理由は「犯行で小指を怪我した、そのままでは無理だ」と思ったからであり、手紙には「心にもないことを書いた……みたいなことを(被告は)言っていました」(鑑定人)のだという。
「家族や、決められた就職先から逃げたかった」
自身の不遇な生い立ちや厳しい境遇に話が及ぶと涙を見せるのみで、被告人質問でも証言を拒んだ被告だったが、この鑑定人らの尋問後、昨年11月28日に改めて行なわれた被告人質問では一転、質問に答えるようになった。大量のティッシュを手に持ち、証言台の前に座る。そしてこの日、弁護人の質問に対し、事件を起こしたのは「家族や、決められた就職先から逃げたかった」と逃避であることを明かした。
「家のこと、妹のこと、母のこと、ま、いろいろ、家出たくても、母から出るなと束縛されたり……普段から変な行動……ま、一番辛かったのは、母から『邪魔なんだよ』と言われたり……あとは将来、整備士のこと……あとは事件のこと……」(被告人の証言)
ティッシュで目頭を押さえ、鼻をすすりながら被告は、望まぬ就職先を母親から決められたことや家族関係に疲れたことから、全てから逃げたかったのだと語った。ところが質問が事件の詳細や、被害家族のことに及ぶと淡々と言うのだった。
「ま、向こう側は、まあ、悪くない。こっち悪くて、悪いことしたと思いますが、特に僕としては何もしてあげることができないで、このまま一切関わることない。Cさんへの恋愛感情はもうない」(同)
裁判官が「Cさんのために思って話をすることはできませんか?」と問いかけた際も「正直、自分でも分からない」と答えるのみだった。
更生の可能性を見出そうという意図の質問は続き、裁判員がさらに問いかける。
裁判員「死にたいとかじゃなくて、生きて、犯した罪の重さや、被害者への謝罪、後悔とか、そんなことを思って生きていくことは考えないですか?」
被告「考えないです」