ビジネス

大阪・九条の老舗角打ちは、福笹に囲まれた客がえびす顔!「毎日同じ話で大ウケできる、もう最強やなぁ」

 阪神電鉄なんば線・九条駅から南へ徒歩3分程、角地にでんと店を構える『三好屋商店』。大阪・九条はネジの街だ。明治時代に洋式造船所が生まれたことに由来し、以来、地場産業として栄えてきた。『三好屋商店』の周辺もほのかに鉄の香りを放つネジ工場が点在している。

ネジの街、大阪・九条に店を構える『三好屋商店』

ネジの街、大阪・九条に店を構える『三好屋商店』

「『欲しいネジがあったらどれでも好きなん持っていきや~』と街のおっちゃんらに言われて育ちましたわ」と、店を切り盛りする3代目店主の吾妻康史さん(61歳)は語る。

 店内には、店主が「僕の趣味の神頼み」というえびすさま(えべっさん)の縁起物・福笹が沢山飾られている。「今宮戎、西宮戎、柳原蛭子、生田神社に伏見稲荷。商売繁盛の神頼み、労を惜しまず、行けるところは全部行こうと思うてね、やり始めて40年になりますわ(笑い)」。 

 開業は、昭和6年という老舗で、歴史を刻んだ床板は、客の靴底で磨かれて、見事に黒光りしている。創業時は酒の蔵元だった。「味見をしませんか?」と客への試飲が立ち飲みの始まり。「アテないのん?」と客に言われて、おでんを始めたのが料理の最初だという。

 客から「兄さん」と慕われる店主が昼から仕込む多様なつまみは大人気。カウンターには、一皿ごとに丁寧にラップがかかり、わかりやすいように黒マジックで大きく料理名が書いてある小皿がずらりと並んでいる。

目移りしてしまうほど沢山の種類のつまみがずらりと並ぶ

目移りしてしまうほど沢山の種類のつまみがずらりと並ぶ

 17時。開店して最初にやって来たのは、近くで働く塗装工の女性だ。「職場がすぐそこ、数十秒のとこやから、終わったらすぐに来るねん。いつも一番乗りや。ここはストレス発散の場所ですわ。兄さん、おでんちょうだい!」

 彼女を皮切りに、多彩な客が続々と扉を開けては、やって来る。いつもの定位置であるカウンターの端に陣取ったのは「警備の仕事を終えたところ」という常連だ。

「仕事帰りに一杯。昔はこの店の向かいに銭湯があってな、風呂とこの店がセットやったんやで。わしは家に帰っても飲むけどな、まずはここで気分の切り替えや。滞在時間は30分ってとこやな」

 この店のテレビのチャンネル権を持っているのは、50代の常連だ。ここに通って20年になるという。自ら作った「指定席」の札を、テレビがよく見える場所に置いては、「おまえの家ちゃうねんぞ!(笑い)」と店主に怒られながらも、毎日やって来るのだ。

「一度、開店時間を間違えて、一時間早く来たことがあってん。テレビで大相撲を見ていたら、おかしいなあ、今日はいつまで経っても三役が出てけえへんなあ…、あーっ!!と気がついたんや」と大笑い。

 この店で唯一、ツケで飲める客は、通い歴50余年の75歳。常連からも敬意を払われていて、愛称は「会長」。「お得意先ともここで飲むで」という”太客”で、「立ち飲みは元気のバロメーターや。しんどなったら帰る。ずっと立ってられへんようになったら、もう引退ですな」と貫禄をにじませる。

焼酎ハイボールを手に和やかに語らう常連客ら

焼酎ハイボールを手に和やかに語らう常連客ら

 店主には、酒屋以外にもう一つ別の顔がある。実は、バイク乗りで、愛車はカワサキZ400。土日祝は、店は休みで、ツーリング。そんなこともあって、ツーリング仲間もよく飲みに来る。

「バイクの相談にもよく乗ってもらうから、ツーリング仲間の客は店主を『アニキ』と呼んでいます。この店を起点として、東は三重、北は丹波篠山、西は神戸明石、南は和歌山と、いろんなところに出かけます。どっちに向かって走り出しても楽しい場所やからね。次の走りの計画を立てながらやる一杯は格別ですわ」(ツーリング仲間の常連)

バイクが趣味の店主は、「兄さん」「アニキ」と皆から慕われている

バイクが趣味の店主は、「兄さん」「アニキ」と皆から慕われている

 馴染みの客らが寛ぐ一方で、「今日初めて来ましたんや」という賑やかな御仁(60代)も。「金ならいくらでもあるんや~、けれど金以外がないんや、僕の人生」と独特の”浪花節”を語って異彩を放っている。

「そやから、ええとこ連れてったると誘われて、今日はここに来てん」と話すと、即座に「どうや、ここにはあるやろ」と合いの手。「あるわー(笑い)」とその場で出会った同士でにこやかに乾杯。

 この店には「兄さん」もいれば「妹さん」もいる。多種多様な客に、見事に応じて店を盛り立てている店主の妹・環(たまき)さんは、「ほんま、お客さんがエネルギッシュでおもろい。だから、毎日、飽きないですわ」と笑顔。

「でもね、お酒が進むと皆さん毎日、得意げに全く同じ話をしはるんです。私は『それ昨日聞いた話と同じやん!』とハッと気づくんやけど、みんな『ほいでほいで?』ゆーて、オチでドーンと全員で笑うねん。どういうことなん? もう最強やなぁと思いますわ」

笑顔を絶やさない環さん(右から2番目)は店の人気者だ

笑顔を絶やさない環さん(右から2番目)は店の人気者だ

 環さんがニコニコしながら、テーブルに次の酒を出していく。その一杯の酒がネジのように人と人を結びつけている。

 笑いの絶えない店で皆が手にするのは焼酎ハイボールだ。

店主が昼から仕込む絶品のつまみには焼酎ハイボールがよく合う

店主が昼から仕込む絶品のつまみには焼酎ハイボールがよく合う

「この酒は甘くないでしょ。だから、めっちゃ好きやねん」(通い歴20年の常連)

■三好屋商店

【住所】大阪市西区九条南2-14-1
【電話】06-6581-3448
【営業時間】月~金17~21時 土・日・祝定休 
焼酎ハイボール220円、ビール大びん460円、おでん130円~、ハムかつ360円、お好み焼き300円

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
有働由美子と膳場貴子
【25年の因縁】有働由美子と膳場貴子“6才差のライバル関係” NHK時代に激しいエース争いを繰り広げた2人の新たなチャレンジ
女性セブン
羽生結弦の勝利の女神が休業
羽生結弦、衣装を手掛けるデザイナーが突然の休業 悪質なファンの心ない言動や無許可の二次創作が原因か
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン