当時も売上10.6万枚とヒットしたものの、同期はさらに上を行っていた。細川たかしはデビュー曲『心のこり』で、岩崎宏美は2枚目『ロマンス』でオリコン1位を獲得。ともに80万枚を超えた。
「大ヒット曲を出す凄い方たちばかりでしたので、『私はお芝居もしてるし』と心のどこかで折り合いを付けようとしていました。歌番組の最後にみんなで並ぶ時も、つい後ろの方へ行ってしまい、性格的にも前に出ることができなかったんだと思います。事務所の方に『真ん中に行きなさい』とよく注意されていました」
それでも、『青春の坂道』は時代を越えて愛される曲になった。YouTube Musicの再生回数では同じ松本の作詞で、リリース時にヒットチャートを賑わせていた『木綿のハンカチーフ』(1975年12月発売/オリコン最高2位/86.7万枚)の1151万回を上回っている。松本は2003年に掲載されたと思われる『作家で聴くJASRAC会員作家インタビュー』でこう話している。
〈ヒットの基準については、シングルをリリースして3ヶ月以内に売上枚数が30万枚に届かなかったら失敗という考え方があるけど、僕はリリース時に数万枚のセールスしかなくてもその後少しずつ売れ続けたら、同じように価値があると思っています〉
〈チャートには出なくても、本当に価値がある作品は後世に残っていきます。だから、その場限りのヒットを目指すのは意味がないことだと思う。「目先のえさにダマされるな」っていうのが若いアーティスト達へのアドバイス、かな(笑)〉
令和の『青春の坂道』のヒットは、この言葉を具現化している。
【プロフィール】岡田奈々(おかだ・なな)/1959年2月12日生まれ、岐阜県出身。1974年にスカウトされ、オーディション番組『あなたをスターに!』でチャンピオンに。1975年『ひとりごと』で歌手デビュー。歌手と女優を両立していたが、1979年に女優を主軸とする。代表作に映画『あゝ野麦峠 新緑篇』『里見八犬伝』、ドラマ『俺たちの旅』『スクール☆ウォーズ』など。今夏から1年間、芸能界デビュー50周年を記念する企画を予定
◆文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、関係者への取材、膨大な資料を元に1980年代から1990年代にかけての芸能界、アイドル界の変貌も克明に描いた。巻末付録では田原の1982年、1988年の全出演番組(計534本)の視聴率やテレビ欄の文言、番組内容なども掲載