スマートフォンの普及とともに「歩きスマホ」や「ながらスマホ」による事故が社会問題として注目され、2019年には運転者への罰則が強化され反則金も普通車で3倍になった。その直後は死亡重傷事故が減ったものの再び増加に転じ、2023年には「ながら運転」が要因で発生した自動車の死亡事故件数は122件、統計が残る2007年以降で最多となった(警察庁調べ)。このスマホにまつわる事象と同じくらい、危険が迫っているのがイヤホンだ。ライターの宮添優氏が、ワイヤレスやノイズキャンセリングなど高機能化し便利になったイヤホンによって、どんなトラブルが発生しているのかをレポートする。
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スマホなどのモバイル機器の進化とともに、従来は有線式が当たり前だったイヤホンも、ケーブルがないワイヤレスタイプのものが主流になりつつある。アップルの「AirPods」シリーズなど、各メーカーが続々と新商品を売り出している。特に、周囲の音を聞こえにくくする機能を備えるノイズキャンセリングイヤホンが人気だ。そんな中、このワイヤレスイヤホンについて取材した大手キー局社会部記者は、法律が現実に追いついていないため、あちこちでトラブルが起きていると訴える。
「着用して車や自転車を運転することも、もちろん、着用して街中を歩き回っても、それ自体に罰則があるわけではありません。しかし、取材をすればするほど危険な状態に陥っていることがわかります。まさに法が実情に追いついていないのです」(社会部記者)
誤解のないようにいえば、イヤホンを着用していたことが原因で事故を起こした場合は、安全運転に努めるドライバーの義務を怠ったとして、道路交通法で検挙される場合がないわけではない。また、数多くの自治体では、運転中のイヤホン禁止をそれぞれの条例によって規制している。しかし、イヤホンが原因の事故は、実は公式発表よりも多く発生しているのではないかと、先の記者は疑問を呈する。
「実際、イヤホンをしていた運送ドライバーが事故を起こしたり、イヤホン着用の自転車利用者が車にはねられた、というような情報がテレビ局に寄せられたりもしますが、結局、イヤホンが原因と警察は断定しない。かつて取材した男性は、イヤホンで音楽を聞きながら車を運転し事故を起こしましたが”外音取り込みの機能を使っていた”と主張して、結局、イヤホンが事故の原因とはならなかったのです」(社会部記者)
音楽への没入感が得られるノイズキャンセリングイヤホンだが、たとえば外をランニングするときなど、周囲の音がまったく聞こえないと近づいてくる自動車や自転車などを音から察知することができない。そういった危険を回避するために、周囲の音が聞こえる「外音取り込み」「ヒアスルー」「トランスペアレンシー」など、様々な呼び名の機能を搭載するのが普通になってきた。だがそれらの機能はユーザーがみずから切り替えないとならないため、億劫がって危険な場面でも音楽以外は聞こえないままイヤホンを使い続ける人も少なくない。その結果、ひやりとする場面どころか事故に繋がっているというわけだ。