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葉真中顕氏、著書『鼓動』を語る 「都合が悪いものが裏に追いやられる傾向が加速したのが今の時代。その煽りを食った多くの人達は今も生きている」

葉真中顕氏が新作について語る

葉真中顕氏が新作について語る

 一般に〈8050問題〉とは、引きこもりや無職の子供を親が支える状態が長期化し、両者の高齢化や孤立がより深刻化している現象のこと。それはそのまま、いわゆる団塊の世代と自分たち、団塊ジュニアの問題でもあるという気づきが、葉真中顕氏(48)に本書『鼓動』を書かせたという。

「僕は1976年の早生まれで、本作の〈草鹿秀郎〉よりも学年は1つ下なんですけど、自分がもし作家になれていなければとか、自分が生きなかったもう1人の自分を、あえて今回は自分事として書く必要がありました」

 自分事という意味では、警視庁桜ヶ丘署の女性刑事〈奥貫綾乃〉もそう。2022年6月、聖蹟桜ヶ丘駅近くの公園で絞殺後に燃やされた老女の変死体が発見され、以前からその花柄のワンピースの女性を見かける度に〈フラワーさん〉と勝手に呼んでいた47歳バツイチの奥貫には、ネットカフェや公園を転々とし、あげくに燃やされた彼女の最期が、他人事には思えなかった。

 事件は程なく近所に住む無職の男、草鹿秀郎48歳が逮捕され、〈ホームレスなんてなんの役にも立たなくて、ただ目障りなだけ〉と供述。実は既に父親を殺していることまで自供し、〈まーた、無敵の人の事件か〉などとSNS上でも話題騒然だ。が、そうやってわかりやすく整えられた裏側にこそ、剥き出しの真実は常に潜む。

 本作は2014年刊行の話題作『絶叫』や2019年『Blue』に続く奥貫シリーズ第3弾。自分の娘をうまく愛せず、夫に託して別れた主人公の造形が、作を重ねるごとに深まっていくのも見ものだ。

「現代ミステリー、特に奥貫シリーズのような時代を扱う社会派ミステリーでは、犯罪の根底に必ず家族の問題が関わってくる。結果的にそれを捜査する奥貫自身がトラウマを抱え、それぞれ独立した事件を他人事ではなく自分事と捉える形になっていきました。

 例えば冒頭の事件は20年秋に起きた渋谷ホームレス殺人事件がヒントになっていて、その事件の報道に触れた時にドキリとした人は一定数いると思う。言うなれば社会の穴です。一度落ちると二度と這い上がれないばかりか、存在自体、無かったことにされてしまうかもしれない。たまたま俺は引きこもらずに済んだけど結構ヤバかったとか、自分も一つ間違えばという恐怖の感覚って今の時代、誰にでも当事者性やリアリティがあると思うんです」

 本作では1966年に上京し、中堅商社に就職した父親と、富山から金の卵として上京した母親の間に1974年に生まれた〈ぼく〉の独白パートと、先述の事件を捜査する奥貫のパートが交互に並走。〈明日は今日よりも豊かになる〉と誰もが信じた時代に育ち、後にバブル崩壊の煽りをまともに食うぼくが、当の草鹿秀郎であることも、早々にピンとくる趣向だ。

 まずは事件から。公園で人が燃えているとの通報を受け、早速臨場した奥貫は燃え残った着衣から遺体の主がいつも花柄の服を着てトートバッグを抱えていたフラワーさんだと気づく。

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