コラム

実家じまい、母の民芸コレクション数千点の譲渡会を父が設計した自宅で開催。新しい物語を次世代につなぐ 二部桜子さん

SUUMOジャーナル

多くの人が気になる「実家の片づけ」。挿花家でエッセイストの母と建築家の父のもとに生まれた料理家の二部桜子(にべ・さくらこ)さんは、両親が世界中で集めた膨大な民芸品などのコレクションを次世代につなごうと、実家を開放して譲渡会を実施。遠方からも人が訪れて盛況に! 実家じまいとしてはもちろん、自身の今後についても多くの気づきが得られたというその経験について、二部さんにお話を伺いました。

暮らしも注目された母・二部治身さん。世界を旅して集めた民芸品が大量に

コンクリート打ちっ放しの天井の高い建築。広大な空間を埋め尽くすように、おびただしい数の器や古道具が並ぶ。「ちょっとした骨董市の物量ですよね」と二部桜子さんも笑うが、一家庭のコレクションとは思えないスケールだ。

ここは桜子さんが育った東京都八王子市郊外の家。母である挿花家でエッセイストの二部治身(にべ・はるみ)さんは、建築家の夫・誠司(せいじ)さんとともに桜子さんと弟を育てながら、約100坪もの敷地で花と野菜をつくり、四季の草花を愛でてきた。「暮らし系」という言葉が生まれるずっと以前の80年代後半から、自然とともに生きる治身さんのライフスタイルは数々の女性誌や著作で紹介され、全国に多くのファンを生んだ。

「母は高校生のころから骨董を集めていたほど器や雑貨が大好き。タイへの新婚旅行を機にアジアの魅力に目覚め、さまざまな国を訪れては現地の民芸品を山のように持ち帰っていました」と桜子さんは振り返る。「アジアやアフリカの民芸品が持つ、素朴でどこか不完全な美しさが好きだったようです。父も収集癖があり、夫婦で好みも一致していたので、二人で競うようにものを集めていました」

治身さんが現役のころは雑誌などの撮影用小道具のリース業も少なかった時代。仕事に使えるようにと集めていた部分もある。1999年に建て替えられたこの家も、治身さんの仕事の撮影にも使えるようにと誠司さんが設計したもの。「だからデザイン性は高いんですけれど、底冷えするように寒かったり、段差が多かったり。敷地も広すぎて、高齢の夫婦が暮らすには厳しくて」

両親とも実家を手放して小さく暮らすことを検討していたが、2021年に誠司さんが他界してしまう。治身さんは桜子さん夫妻と暮らすことになり、いよいよ実家じまいを行うこととなった。

仲間の力を借りながら、楽しんで準備した自宅での譲渡会が大反響

そうして始まった二部家の実家じまいだが、当初は明らかに不要なものも膨大にあったという。
「まずは不要品を処分するのがいちばん大事だと思います。体力の必要な作業ですが、海外に住む弟も帰国時にやってくれました。とはいえあまりに物量が多かったので、この最初の段階ですべてを要・不要に分けたわけではないんです。判断に迷うグレーゾーンを残しつつも、明らかな不用品やゴミを処分できたことで気持ちにゆとりができ、友人にも手伝いに来てもらいやすくなりました」

残されたのは、大量の民芸コレクション。業者に買い取りを依頼することも頭をよぎったが、せっかくなら友人に譲りたいと桜子さんはひらめいた。「アパレル業が長かったこともあり、器やインテリアが好きな友人が多いんです。話してみたら“おもしろそう!”と言ってくれて」。そうしてまずは友人知人限定で、フリマ形式の譲渡会を行うことにした。

フリマで難しいのが値付けだろう。「母も値段までは覚えていなかったので、骨董屋さんに出かけて値ごろ感を確かめたり、画像検索で由来や価格を調べたり。通常の骨董品店よりはかなりお得な値段に設定しました」

友人の手も借りながら準備を進め、2022年8月と9月の4日間で「Recollection – 回想の記録 -」として譲渡会を実施。「告知はInstagramの個人アカウントのみで、友人とその友人のみの予約制に。中には影響力のある友人もいたので拡散力がすごくて」。予想以上の反響があり、約1500点が新たな持ち主のもとに旅立った。

好評を受けて、10・11月には一般客にも予約枠を開放することに。「リテールビジネス(BtoCのビジネス)に携わっている友人たちがいろいろアドバイスをくれて。当初は“この引き出しの中はいくら”みたいな値付けでしたが、知らない人への販売なら一つひとつ値段を書いたほうが会計がスムーズだよとか。”このコーナー売れ行きがよくないね”と友人がささっとディスプレイを直してくれたとたん、驚くほど売れたりも」

手伝ってくれた友人たちとはいつしか“実家フェス”の通称が定着。「”せっかくならお茶ができたらいいよね”と、友人が和室で抹茶を立てて、私のお菓子とお出ししたり。そうやって仲間とアイデアをふくらませるのが楽しかった」。まるで学園祭のような自由さをベースに、ビジネススキルと創造力を持ち寄って準備したこのイベントには、北海道や石川県など遠方も含めのべ数百人が訪れ、総計5000点ほどを譲渡できたという。

2023年10月には「Recollection-回想の記録-エピローグ」として、治身さんの著書のレシピを再現した食事会も実施。「譲渡会で、父が建てた建築をみなさんに見ていただけたのも嬉しかったんです。せっかくだから記録に残そうと、母の料理をつくって父と母が元気だった頃の二部家を再現して、友人である写真家の鮫島亜希子さんに撮ってもらいました」

顔の見える使い手へ譲る喜びが、愛したものを手放す寂しさを和らげる

業者の買い取りより手間や時間はかかっても、ものの行く末がわかるのが嬉しいと桜子さん。「友人のおうちに遊びに行ったら、うちで活躍していたものにまた出合えたり。おうちで使う様子をInstagramに上げてくれる人もいて、両親の愛したものたちの新しい物語が始まるのだと実感できました」

治身さんもイベントの様子に感激。「ものを手放すから、と悲しむ様子が全くなくて。自分のコレクションがお店みたいにキレイに並べられて“やっぱりこれ素敵よね”なんて喜んだり。自分が好きで手に入れたものを、みなさんが楽しそうに選んで譲り受けていく姿がすごく嬉しかったようで、いい親孝行ができました」

もちろん治身さん自身が手離したくない宝物はキープ。桜子さんも、手元で大切にしたいものたちを自宅やスタジオで愛用している。

これからの“もの”との付き合い方を考えるきっかけにも

二部家の実家じまいは、かなり特別なケースかもしれない。でも桜子さんのアイデアと行動力があったからこそ譲渡会は実現でき、成功につながった。「思いついたら後先考えず突っ走るタイプ。料理の仕事もずっとやりたいと言っていたけれど、この物件との運命的な出合いがあって、会社を辞めるより先に契約したことで現実化したんです。今回のイベントも、アイデアを周囲に伝えることで現実のものになりました」

周囲の人を巻き込んだのも成功の秘訣。
「一人では絶対に無理でした。最初に不要品処分を弟がやってくれたことが突破口になったし、アパレルの仕事の友人や、料理の仕事を通してつながった暮らしに関心の高い友人が助けてくれたからこそ実現しました」

また、今回のイベントを経験して学んだこともある。
「次の世代が使いたいと思える“いいもの”だからこそ譲ることができたんですよね。自分がものを選ぶ際にも、単に便利で安価だからというのではなく、次の世代にも引き継げるものを選ぶことが大切だと痛感しました」

両親が愛用していたハンス・J・ウェグナーデザインの「Yチェア」もそのひとつ。「実家で使い込まれて、かなり傷んでいたんですが、クリーニングに出したらいい味わいを残しつつきれいになって。いいものだからこそ、こうして修繕しながら長く使えるんですよね」

高齢になり、広すぎる家や多すぎるものの扱いに困っていた両親の姿を見て、年齢に応じてものとの付き合い方を見直す必要性にも気づいたという。
「70歳くらいになったら新たなライフステージの準備として、またフリマをやろうかと仲間と話しているんです。そのためにも“20年後、次の使い手に引き継げるか”を、もの選びの指針として大切にしていきたいです」

桜子さんのご両親が美しいと思えるものだけを集めていたからこそ、次の使い手につながるという幸せな展開は実現した。特別なケースだと思われがちな二部家の実家じまいだが、サステナビリティが重視される時代に、“次の使い手に引き継げるか”は、誰もが実践したいもの選びの基準と言えるだろう。また次の使い手へ引き継ぐための自宅フリマや譲渡会も、新しい実家じまいのアイデアとして参考になるはずだ。

●取材協力
「SHUNNO KITCHEN」主宰 二部桜子さん
Instagram

(吉永美代)

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